あなたのサイズ

冴は採寸するたび、メジャーと数字を一緒に撮影した。

私が用意した服も、「自分でラックから取ります」と受け取らない。新人のくせに妙に警戒心が強い。モデルの体形を間違えるのが怖いのだろう。

アパレルブランドの撮影現場で、私は何度も冴を助けてきた。彼女は色合わせが上手いが、サイズ管理が甘い。トップスがきつい、パンツの丈が足りない。モデルが不機嫌になる前に、私が予備を出して空気を整えた。

春の広告撮影でも、冴の組んだ白いジャケットが小さすぎた。私はため息をつき、ひとつ上のサイズへ交換した。現場が拍手するほどきれいに収まり、ディレクターからも「彩未がいて助かった」と言われた。

冴はその間、外した服の縫い目ばかり見ていた。礼も言わないので、私はモデルの前で「新人だから許してあげて」と笑い、空気を軽くしてやった。

翌週の社内発表で、冴は完成写真を示した。

「スタイリングは、私が担当しました」

私が救ったことには触れない。若い子は、成功だけ自分のものにする。

「そのジャケット、サイズを選び直したのは私でしょう」

「最初に用意したのも、このサイズです」

「嘘。タグは三十六だった」

「写真では三十八です」

撮影前日の採寸写真、ラックの入庫記録、衣装タグの拡大画像。すべて三十八だった。次に、現場で私が「小さすぎる」と外したジャケットが袋から出された。表のタグは三十六だが、裏には三十八の洗濯表示が縫い付けられている。

「タグだけ付け替えられていました」

「管理ミスを確認しただけよ。現場対応力を見るために」

「前の三回もですか」

冴は、サイズ違いとされた衣装を保管していた。どれも表の数字だけが縫い直され、私が予備として出した服は、元の指示書と同じサイズだった。

私は彼女を育てたかったと話した。失敗を経験しないと、人は緊張感を持てない。モデルに恥をかかせるつもりはなかった。

ディレクターは撮影記録の再確認を命じ、冴の名前をクレジットへ戻した。

付け替えたタグの赤い糸は、会社で私だけが使う裁縫箱の色だった。