あなたの写真は載せません

円香は写真を怖がった。昔の交際相手に居場所を追われたことがあるという。

「私の写真、絶対に載せないでね」

私は約束した。食事も旅行も、円香が写るものは投稿しない。代わりに彼女がカメラ係になった。

「藍子、そのコート着てみて。私には大きかったから」

「顔を少し右へ。窓を見て」

彼女は私ばかり何十枚も撮った。自分は集合写真にも入らない。慎重な人なのだと思っていた。

しばらくして、知らない匿名アカウントから私へ〈ずっと見ていました〉と届いた。そこには、私の後ろ姿、指、笑った横顔が並んでいた。撮影場所は円香と出かけた店ばかりだ。

添えられた文章には、私が円香にだけ話した失恋や転職の迷いまで書かれていた。〈朝は白湯から〉という習慣だけは私にはなく、円香がいつも語るものだった。混乱した私は、その違いを見落とした。

私は恐怖で震えた。円香は「やっぱり載せる人がいるんだ」と抱きしめ、スマホの設定を変えてくれた。匿名アカウントへの返信も、刺激しないよう彼女が代わりに打った。

数日後、街のポップアップ店で、知らない女性に声を掛けられた。

「いつも投稿見てます。彼氏さんとは仲直りしたんですか?」

見せられたのは、暮らし系の匿名アカウントだった。名前も顔出しもないが、持ち主は円香として日記を書いていた。フォロワーは八万人。私が知らない恋人との記念日や、買っていない高価な家具まで、私の写真を背景に本当らしく積み上げられていた。

写真に写っているのは私。私が選んだ服、私の部屋、私の誕生日。恋人との会話として載っている言葉まで、私が円香に送った相談だった。

「写真を載せないって言ったよね」

問い詰めると、円香は首をかしげた。

「藍子の名前では載せてないよ。顔も毎回少し変えてるし」

彼女にとって、約束は守られていた。私が怒る理由のほうが理解できないらしい。

その夜、アカウントに新しい写真が上がった。

〈今日も私らしく〉という文字の下で、私の顔だけが円香の人生として笑っていた。