あなた向きの朝
冬馬は、私より私の好みを知っていた。
初めてのデートで、砂糖抜きのカフェラテを注文した。私が花粉の時期だけ銀のピアスを外すことも、白い服を着る日は香水をつけないことも覚えていた。
運命の人だと思った。
友人は「少し怖くない?」と言ったが、私は彼女が覚えてくれないだけだと返した。理解される幸福を知らない人の嫉妬だと思った。
けれど時々、まだ話していないことまで知っていた。子どもの頃、マーマレードが嫌いだったこと。転職前にだけ爪を短く切ること。尋ねると、「前に聞いたよ」と笑う。
もう一つ、朝の服を選ぶ時、彼は妙な言い方をした。
「今日は白を選ぶ日だよね」
私が選ぶのではなく、最初から決まっているようだった。
婚約後、冬馬は私の匿名アカウントをやめるよう勧めた。そこには五年前から、仕事や恋愛の悩みを書いていた。見知らぬ相談相手がいつも優しく返信し、服や髪型まで助言してくれた。冬馬は「過去に縛られない方がいい」と言い、私の代わりに退会処理をした。
ある朝、彼のタブレットに予約投稿の画面が開いていた。投稿者名は、その相談相手と同じ。下書きには、私が冬馬と出会う半年前からの指示が並ぶ。
〈明日は駅前の書店へ〉
〈青より白が似合う〉
〈職場の友人はあなたを利用している〉
私たちの出会いも、友人との絶縁も、偶然ではなかった。
投稿履歴をさかのぼると、私が婚活アプリを入れた夜には〈年上で聞き上手な人を選んで〉とあり、翌日、冬馬から最初の「いいね」が届いていた。告白の前には〈赤い橋で言われる言葉は信じていい〉。プロポーズの朝には〈迷ったら、相手の選択を自分の答えにして〉。私は助言どおりに生き、助言を書いた人と婚約していた。
「ずっと見てたの?」
冬馬は嬉しそうに頷いた。
「君が一番幸せになる選択を、少し先に教えていただけだよ」
私は怖がるべきなのに、何を選べば正しいのか分からず、彼の顔を見た。
その時、予約投稿の次の一文が自動で公開された。
〈仕事を辞めると、もっと愛されます〉