さつま揚げの焦げた端
峰岸大雅が「潮路」の戸を開けると、店主は棚の奥から平たいさつま揚げを出した。
「端、強めに焼くんだったな」
大雅は祖母に連れられてこの店へ来ていた。祖母は柔らかな中央を食べ、大雅には焦げた端をくれた。上京してから一人で通うようになっても、その食べ方だけは変わらなかった。
網の上で表面がぷくりと膨らみ、油がじゅっと滲んだ。魚の甘い匂いに焦げた醤油の香ばしさが重なり、切った断面から湯気が立つ。端を噛むと薄い焦げがぱりっと割れ、中は弾むように柔らかかった。
祖母は先月亡くなった。
大雅は葬儀に間に合わなかった。大事な商談があり、翌朝の便にすれば焼香には間に合うと思った。だが濃霧で欠航し、着いたときには家族だけの式が終わっていた。
明日は祖母の家を片づける日だ。叔母から時間だけ送られている。大雅は、仕事を理由に欠席するつもりだった。顔を合わせれば、商談を選んだことを責められる気がする。誰も責めなくても、自分が勝手に声を聞くだろう。
祖母から最後に届いた留守番電話は、まだ再生できずにいる。内容はたぶん、商談の成功を祈るだけの短いものだ。聞けば声が過去になる気がして、通知を残したままにしていた。片づけの日には、その電話機も処分される。大雅は、せめて自分の手で再生してから箱へ入れたいと思った。誰かに先に消されることだけは嫌だった。
「真ん中も食えるぞ」
店主が、端ばかり切る大雅へ言った。
祖母も同じことを言った。大雅が中央は祖母の分だと答えると、いつも笑っていた。
大雅は明朝の新幹線を予約した。叔母へは、片づけに参加するとだけ送る。葬儀に行けなかった理由を長く説明するのはやめた。謝って許されようとするより、まず祖母の服や食器を箱へ入れる。
商談を選んだ事実は変わらない。祖母の最後の声を聞けなかったことも戻らない。家へ行けば、空の椅子を見てまた後悔するだろう。
最後に中央を口へ入れると、端より甘く、やわらかな魚の味がした。焦げた匂いは薄れても、舌にはぬるい温度がいつまでも残った。