ひびのあるシュー

御影初音は、洋菓子店「ピッコロ」のショーケースで、ひびの入ったシュークリームを指さした。

丸い皮の上部が少し割れ、白いクリームが線のように見えている。値札には通常より三十円安い価格が書かれていた。

「中身は漏れていませんか」

「検品しました。皮だけです」

店主はシュークリームを取り出し、透明な蓋の箱へ入れた。箱のラベルに「外皮ひびあり・中身確認済」と手書きする。割れ目を裏へ回さず、上から見える向きのまま置いた。

初音はその文字を見て、朝から隠している入力ミスを思い出した。取引先へ送る見積書の数量を一桁間違えた。まだ発注前なので修正はできるが、上司が気づく前に直せば黙っていられるかもしれない。そう考えているうち、取引先から確認の電話が来てしまった。謝る相手が増える前に、直すための時間だけが減っていた。

「贈り物には向きませんか」

初音が尋ねると、店主は蓋を押さえながら答えた。

「表示を見て選んでいただけるなら、品物としては同じです」

表示があるから、相手は受け取るか決められる。黙って渡せば、ただの不意打ちになる。

会計を済ませた初音は、店の古い電話台に箱を置き、会社のチャットを開いた。

〈私が作成した見積書の数量に誤りがあります。正しくは二百ではなく二十です。先方から確認連絡がありました。差し替え版を今から送ります〉

言い訳を加えそうになり、消した。送信後、修正版を添付する。上司からの返信はすぐには来なかった。

店主はレジ横で値札を書き換え、割れた一個が売れた場所を空欄のままにしていた。別の商品を寄せて穴を隠したりしない。

初音は店を出て、シュークリームを一口かじった。ひびから先に歯が入り、皮は大きく割れた。けれどクリームは甘く、量も足りている。

スマートフォンが震えた。上司から〈確認した。先方への訂正は一緒に出す〉と届く。

失敗がなくなったわけではない。ただ、どこが割れたかを表示したことで、ようやく修正できる形になった。