カメラにだけ映る同僚

映像制作会社のオンライン会議で、退職したはずの社員が毎回映り込んだ。

榧場史津の背後、ガラス窓の中に、白い顔が一瞬だけ現れる。

部長が言った。

「史津さん、誰か部屋にいる?」

「一人です」

同僚が画面を拡大する。

「昨年辞めた八巻さんに似てる」

「会社へ恨みが?」

「送別会の費用を割り勘にしたから」

「それで化けて出るには額が小さい」

会議のたび、顔は別の社員の画面へ移った。

営業の背後、経理の棚、社長の肩の上。

「誰かが連れてきている」

営業は経理を指す。

「最初に八巻さんの精算を止めたのは経理」

経理は部長を見る。

「退職を決めたのは上司」

部長は社長へ向く。

「会社の霊なら法人代表へ」

社長が怒る。

「責任を霊界から役員会へ持ち込むな」

史津は八巻へ電話した。

「元気ですか」

『元気だけど』

「最近、会議へ参加してません?」

『退職後に無給で?』

「霊体なら交通費は」

『生きてる人へ霊体前提で話さないで』

部長は念のため、八巻が在籍中に使っていた席へ塩を置いた。

経理が尋ねる。

「塩代は何費ですか」

「環境整備費」

「除霊なら雑費では」

社長が怒鳴る。

「会社の怪談を会計基準へ載せるな」

史津は画面の顔へ頭を下げた。

「何か不満があるなら、チャットへ」

同僚が止める。

「幽霊へ社内アカウントを再発行する気?」

次の会議では、顔が二つに増えた。

同僚が悲鳴を上げる。

「仲間を呼んだ!」

社長は顔を隠す。

「うちの離職率を亡霊の数で示すな」

経理が言う。

「除霊費用は福利厚生?」

「退職者向けなら人件費?」

「勘定科目から決めるのをやめよう」

情報システム担当が会議へ入り、画面共有を始めた。

各社員は同じ会社指定の背景画像を使っている。窓ガラスに映る白い顔は、背景写真の撮影時、廊下を歩いていた八巻だった。画像の左右反転やぼかし設定によって、位置や人数が変わって見えていたのだ。

担当者は顔の部分を塗りつぶした。

「これで消えます」

部長が胸をなで下ろす。

「除霊完了」

史津は八巻へ結果を伝えた。

八巻は答えた。

『勝手に背景へ使って、最後は塗りつぶすの? 肖像権の請求を送るね』

幽霊は消えたが、元社員の恨みは本物になった。