コピー機の下

小さな設計事務所に、雨の日だけ猫が入ってくる。

裏口の隙間から忍び込み、コピー機の下で乾くまで眠る。所長の史佳は「図面」と名づけた。

社員の杜和は猫が苦手だった。嫌いではないが、触り方が分からない。図面がいる日は足を机の下へ入れず、遠回りして給湯室へ行く。

ある午後、停電でコピー機が止まった。外は雷雨で、図面は機械の下にいる。復旧後、点検のため移動させなければならない。

「抱いてくれる?」と史佳に頼まれ、杜和は固まった。

タオルを両手に広げ、図面へ近づく。猫は逃げず、濡れた髭を前へ向けた。

杜和がそっと包むと、身体は驚くほど軽かった。胸へ当たった喉が振動している。

「怒ってます?」

「それ、喜んでる音」

点検が終わるまで、杜和は図面を膝へ載せた。濡れた毛から雨と埃の匂いがする。ズボンに水染みが広がった。

電気が戻り、コピー機が温まり始めると、図面は自分から降り、元の場所へ戻った。

翌日は晴れ、猫は来なかった。杜和は機械の下が妙に空いて見え、古いタオルを畳んで置いた。

次の雨の日、図面はその上で眠った。杜和の机には修正待ちの青焼きが積まれている。猫へ触れず仕事を続けたが、コピー機から温められた紙が出るたび、下から小さな喉の音が返った。

乾いた図面用紙と猫の毛の匂いが、事務所の雨の日だけの空気になった。

杜和は図面が来る雨の日だけ、給湯室で湯を少し多く沸かした。自分の茶と、濡れたタオルを温める分だ。猫を拭けることは滅多にないが、床へ置けばその上に座る。史佳は猫用の名札を作ろうと言ったが、杜和は断った。雨がやめばどこかへ帰る猫だからだ。コピー機が吐き出す紙の角を揃えながら、下のタオルへ手を伸ばす。図面は逃げず、指の甲へ鼻を一度触れた。熱い紙より短い温度が、夕方まで手に残った。

夕方、雨がやむと図面は裏口から出ていった。タオルには一枚の青焼きの端が貼りついている。杜和は剥がし、猫の寝姿に似た線をしばらく眺めた。