コンビニを一周して
小春はコンビニに入り、何も持たずに店内を一周した。
給料日まで三日。帰宅は午後九時半。冷蔵庫には冷凍ご飯と味噌があるが、おかずはない。仕事中から、帰りに何か買うつもりでいた。
入口近くの新商品棚には、苺のクリームが入ったパン。弁当棚には、温泉卵ののったビビンバ。レジ横では揚げたての唐揚げが光っている。空腹のときのコンビニは、すべてが自分を待っていたように見える。
小春はスマホの銀行アプリを開いた。残高は三千百六十円。家にはトイレットペーパーが二個、シャンプーが一週間分。給料日までは持つ。千円くらい使っても破綻はしない。
それでも弁当に六百円払うと、あとで自分を責めることが分かっていた。買っても後悔し、買わなくても惨めになる。疲れている夜ほど、選択肢が全部罰になる。
二周目、飲料棚の前で止まる。小さな牛乳が百六十八円だった。家には純ココアがある。砂糖もある。
小春は牛乳だけを持ってレジへ行った。
店員が「袋はご利用ですか」と聞く。首を振り、冷たいパックをそのまま鞄へ入れた。唐揚げの匂いを背中に受けながら店を出る。
帰宅して、冷凍ご飯に味噌と鰹節を混ぜた。丸める気力はないので、茶碗の中で崩れた味噌おにぎりとして食べる。思ったより塩辛く、海苔が欲しくなった。
食後、鍋で牛乳を温めた。ココアと砂糖を入れると、表面に小さな膜が張る。マグカップを両手で持って、ベッドの端に座った。
ビビンバを買ったほうが、栄養はあったかもしれない。苺のパンを買えば、もっと嬉しかったかもしれない。だからといって、この選択が貧しいわけでもない。
小春は熱いココアを少しずつ飲んだ。コンビニを二周した自分を、優柔不断ではなく、今夜を連れて帰る方法を探していたのだと思うことにした。
飲み終えたマグカップの底には、溶けきらないココアが少し残った。小春はスプーンですくって舐めた。きれいな夜ではないが、空腹のまま眠る夜でもない。
牛乳は明日の朝の分も残っている。買わなかったものではなく、持ち帰った一本を数えると、選択は急に小さく、扱いやすくなった。小春はレシートを捨て、鞄を床に置いたままベッドへ入った。片づけは朝でよかった。