ピンの立つ場所

宅配アプリの運営センターで、真壁千紘が最初に任された苦情案件は、閉店間際の洋食店からだった。

「配達員が来ないままキャンセルされました。料理は二人分、もう作ってあるんです。しかも店側の責任で手数料まで引かれている」

注文画面には、配達員が指定地点へ到着し、五分待機し、電話を三回かけた記録があった。規約どおりなら、店舗不在として処理される。先輩は「ログを添えて異議却下」とテンプレートを送ってきた。

千紘は店主に、入口の特徴を尋ねた。

「赤いひさしです。大通り側。四十年ここでやっています」

地図の写真には、錆びた鉄扉とごみ置き場しか写っていない。ピンは建物の裏手に立っていた。五年前の改装前、厨房の搬入口だった場所だ。

配達員へ連絡すると、「店名の看板がなく、鉄扉も開かなかった」と答えた。電話番号は店ではなく、本部の自動転送へつながり、営業時間外の音声が流れていた。誰か一人が怠けたのではなく、地図と連絡先が二重に古かったのだ。

先輩は言った。「店が情報を更新していないなら、やっぱり店責任でしょ」

しかし店舗管理画面には、二か月前に店主が入口変更を申請した履歴がある。審査待ちのまま止まり、古いピンが残っていた。

千紘は手数料を取り消し、配達員にも待機分を補償した。誰か一人へ損失を押しつけて解決した形にしないためだった。料理は冷めかけていたが、注文客に事情を説明すると、再加熱して届けることを了承してくれた。千紘は別の配達員へ、赤いひさしの写真と大通り側という説明を直接送った。

二十分後、店主から〈今、持って行ってくれました〉と届いた。怒りの文末についていた三つの感嘆符は、もうなかった。

千紘は地図修正を緊急申請し、店舗登録の手順に「申請が反映されるまで旧地点へ警告表示」を追加する提案を書いた。

処理済みにすれば勤務は終わる。だが画面には、同じ建物で過去三件のキャンセルが並んでいた。

千紘は一件ずつ再調査へ戻し、夜間エスカレーションの担当欄に自分の名を置いた。

「ピンではなく、入口まで確認します」