レジ袋を断る御曹司

星河内皓弥は、放課後になると駅前の格安スーパーでレジを打った。

制服の上に緑のエプロンを着け、売れ残りのパンを従業員価格で買う。矢口嘉紀はその姿を見つけてから、教室で「生活費を稼ぐ苦学生」と呼んだ。

「うちはスーパーなら外商しか使わない。レジ打ちって将来性ある?」

皓弥は、レジ袋を断った客へ笑顔で礼を言った。

学校の進路説明会に、そのスーパーを全国展開する星河内流通の社長が招かれた。嘉紀の父は食品メーカーの営業部長で、大口取引先の社長へ顔を売ろうと最前列に座る。

社長は講演の途中、皓弥を壇上へ呼んだ。

「現場研修、お疲れさま。次期店舗計画を報告してくれ」

皓弥は社長の息子だった。

創業家では、高校生になったら必ず店頭、倉庫、配送を経験し、食費も一般社員と同じ範囲で暮らす決まりがある。皓弥は身分を伏せ、客が困る場所と従業員の負担を半年間記録していた。安いパンを買ったのも、廃棄削減の仕組みを自分で確かめるためだった。売場で名乗らなかったため、店長も発表当日まで彼の素性を知らなかった。

スクリーンに新計画が映る。

レジ袋の削減利益を、パート従業員の時給と子ども食堂へ回す。閉店前の食品は値下げ情報を地域アプリへ出し、廃棄を半減させる。実証店舗の利益は、前年より三割増えていた。

嘉紀は笑った。

「親の会社でアルバイトしただけだろ」

社長は首を振る。

「この計画は取締役会で採択され、皓弥へ特許使用料を支払います。全国八百店で導入します」

その直後、嘉紀の父の会社が納入価格を二重に設定していた監査結果が示された。学校向け商品だけを割高にし、星河内流通の名を使って契約を迫っていたため、取引停止となる。

嘉紀の父は立ち上がれなかった。

皓弥は壇上で、いつもの折り畳み袋を広げた。

「安く買える店は、働く人を安く扱う店であってはいけないと思います」

社長が全国導入の決裁印を押す。

八百店のレジ画面へ新制度開始の通知が届いた瞬間、嘉紀が将来性を笑った一台のレジが、数万人の給料を上げる入口になった。