一円まで割り勘にする男
《経営系配信者ゼンと経理職がダンジョン?》
《債権魔王は受けたダメージを仲間へ請求する》
《攻撃したら視聴者まで巻き込むぞ》
人気経営配信者・皇堂ゼンの槍が、債権魔王の胸を貫いた。傷はつかず、代わりに共同攻略者の千種冬馬の腕へ同じ穴が開く。さらに配信画面の視聴者欄へ、赤い請求額が一斉に表示された。
「冬馬、すまない。俺が攻撃を止める」
「いえ。もう一度だけ、最大火力をお願いします」
冬馬は血の落ちる腕で帳簿端末を開いた。ゼンが配信で公開してきた全戦闘収支を、彼は一円単位で事前に読み込んでいる。魔王の背後には、歴代攻略者から奪った損害額が塔のように積み上がり、誰が何を負担したかだけが意図的に消されていた。
《損害はパーティー全員へ均等転嫁》
《今の一撃で視聴者一人あたりHP一請求》
《最大火力なんて撃ったら百万人が倒れる》
ゼンは冬馬の目だけを見て、槍へ全魔力を集めた。魔王が笑い、契約書の翼を広げる。
穂先が心臓へ届く寸前、冬馬は端末の決算ボタンを一度だけ押した。
「貸方と借方を一致させます」
請求の矢印が反転する。
ゼンの一撃、視聴者へ分配されるはずだった損害、千年分の未払い――すべてが債権魔王ただ一人だけの名義へ集約された。数字を載せきれなくなった契約書の翼が裂け、魔王は自分の請求額に押し潰される。
冬馬の腕の穴も消えた。
「均等に割ったんじゃないのか?」
「均等ではありません。利益を得た者へ正しく計上しました。今日の敗北で得をするのは、彼だけでしたから」
《監査ログ公開、端数一円まで魔王側に帰属》
《ゼンが最大損害を作り、冬馬が受取人を確定。二人でなければ成立しない》
《経理は戦わない? 戦場のルールを締める職だ》
ゼンは槍を置き、配信中にもかかわらず冬馬へ名刺を差し出した。
「顧問契約では足りない。次から共同代表で来てくれ」
画面中央へ公式速報が表示された。
【世界初・視聴者損害ゼロで債権魔王を清算――共同責任者二名】