一拍遅れの魔導銃
「私が遅いんじゃない。こいつが遅い」
衛兵グレンは魔導銃を修理台へ置いた。
引き金を引いてから火弾が出るまで、ちょうど一拍。実戦なら致命的だ。昇格試験では標的を外し、「反応の鈍い者に門は守れない」と最下位にされた。明日の再試験が最後だという。試験では十歩先から飛ぶ木札を撃ち落とす。グレンは札の中心を狙えていたのに、火弾が出たときには一枚先へ進んでいた。観客席から笑いが起き、試験官は銃を確かめもせず不合格印を押した。彼はその印の乾く前に銃を抱え、城壁の端からこの店まで走ってきた。
修理師パメラは銃口を覗かず、側面の詠唱筒へ耳を寄せた。引き金を軽く引くと、内部で《装填、照準、発射》という三つの小さな音がする。
順番は正しい。だが発射の後に、もう一度《照準》が囁かれていた。
旧式魔導銃には、命中率を上げるため最後に確認詠唱を重ねる型がある。前の所有者が狙撃手だったのだろう。近距離用としては、その丁寧さが遅れになる。
「確認を消すのか?」
「いいえ。前へ移します」
パメラは詠唱筒を開き、文字板を一枚反転した。《照準》を引き金へ指を置いた時点で始め、《発射》だけを押し込みと同時にする。安全装置は残し、待ち時間だけを先払いさせる調整だ。
地下の試射筒へ向け、グレンが構える。
指が引き金に触れた瞬間、照準石が青く光る。押し込む。音と火弾が同時に走り、中央の鉄板へ穴を開けた。遅れて届くはずの火薬臭も、弾着の瞬間に鼻を刺す。試射筒の計時砂は、一粒も落ちないうちに止まっていた。
二発目はさらに速い。それでも銃口が人へ向けば安全紋が赤くなり、引き金は動かない。
グレンは何度も銃を見た。
「試験官は、私の言い訳だと思っていた」
パメラは取り外した文字板を証拠袋へ入れた。
「遅れていた一拍はここにあります。持っていけば、言葉よりよく喋る」
彼は修理代を払い、昇格後の給金で二度目の点検を予約した。
背筋を伸ばして出ていく。その足音は、もう一拍も遅れなかった。
直後、店のベルと、別の銃の安全音が同時に鳴った。