一枚多い番重
午前五時半、稲積修は駅前の三店舗へ焼きたてのパンを運んでいた。一店目で、クロワッサンが三十個足りないと店長に呼び止められた。開店まで二十五分。端末上の数量は合っている。
荷台には空の番重が積み重なり、焼きたての箱は奥に残っていた。新人は「工場の欠品です」と報告しかけた。修は送信させず、一店目の納品済み番重をすべて床へ並べた。ラベルは正しい。だが一番下だけ、箱の縁が二重に見える。
薄い番重が一枚、ぴったり重なっていた。そこにクロワッサンが入っている。工場で積むとき、空箱の返却分に見えて、そのまま下へ潜ったのだ。
店長が安堵する横で、修はパンを渡さなかった。重なった内側の番重には、二店目のラベルが貼られている。見つかった三十個は一店目のものではない。ここで渡せば一店目は助かるが、次の店が欠品になる。
修は製造一覧を確認した。一店目のクロワッサンは、三店目の食パンの下に入っていた。先入れ先出しの順に積もうとして、形の似た番重だけが店順から外れたらしい。彼は荷台の箱を一度全部降ろし、店ごとではなく商品ごとに数量を読み上げ、新人に復唱させた。
一店目の三十個を渡せたのは開店七分前だった。二店目と三店目には到着が遅れると連絡したが、欠品は出ない。
「見つけた箱を渡せば早かったのに」
新人が言う。
「早く間違えると、次の店では原因まで消える」
数量表が合っていたのは、箱の枚数だけを数えていたからだ。重なった二枚を一枚として扱い、別の空箱を一枚多く数えて、偶然帳尻が合っていた。修は工場へ、番重の枚数ではなく商品を声に出して照合するよう報告した。数字が合う誤りほど、見つかるのが遅い。
二店目へ着くと、店員が空箱を山ほど用意していた。修は返却分をそのまま積まず、一枚ずつ逆さにして重なりがないか確かめた。夜明けの工場では、次の焼成が始まっている。今日の空箱が戻るころには、また別のパンが待っている。
車内の甘い匂いは、もう次の店へ向いていた。