九番目のノック

天城弓弦は、八番扉を一度だけ叩いた。

コン、と乾いた音が鳴る。直後、八番の錠が外れた。弓弦は目を見開く藤堂未明の横を抜け、扉の奥へ入る。

未明は九番扉を、すでに八回叩いていた。

「俺が八回、お前が一回だ。なぜそっちが開く!」

壁の規則は短い。

――九回目のノックで開いた番号付き扉を通過した者を勝者とする。

未明は、扉を九回ノックすれば開くゲームだと考えた。自分の扉が九番だったことも、その思い込みを強めた。彼は一回ごとに弓弦を見て、八回目で勝ち誇るように拳を止めた。最後の一打を焦らし、恐怖を味わわせるつもりだった。

弓弦が待っていたのは、その間だった。

規則は「同じ扉を九回」と言っていない。「各扉の九回目」とも書いていない。部屋全体で数えた九回目のノックが、叩かれた扉を開ける可能性がある。

説明中、未明が苛立って壁を一度殴ったとき、天井の表示は動かなかった。数えるのは扉へのノックだけだ。次に司会者が試しに八番を二度叩くと、表示の隅に小さな点が二つ灯った。弓弦はその点が消えず、共通カウンターらしいと見抜いていた。

二枚の扉の上に別々の表示器がないことも決め手だった。数を扉ごとに管理するなら、共通の点灯列だけでは参加者にも運営にも判別できない。

本番開始で表示はリセットされた。未明が九番を八回叩くたび、点は一つずつ増えた。弓弦は拳を上げず、九回目だけを奪った。

「番号は罠だったんだ」

弓弦が言う。

「九番扉を九回叩かせれば、誰も全体の九回目だとは思わない」

未明は八番へ突進するが、扉は弓弦の通過と同時に閉じた。九番をもう一度叩いても、それは十回目でしかない。

機械音が冷たく告げる。

〈総ノック数九。九回目の対象、八番扉。通過者を確認〉

未明の拳が九番に落ちる。十個目の点が灯っただけだった。

弓弦の首輪が外れる。

「最後の一回を打つ者が、最初から数えた者とは限らない」

八番の奥に勝者灯が点き、未明の九番は一度も開かないまま赤く染まった。