二人分のタイムカード

誰かと暮らしている社員には、同行勤怠室から二枚目のタイムカードが届く。一枚は本人、もう一枚は家で待つ人の分。出勤時は本人を先に、退勤時は待つ人を先に打刻する。待つ人がいなくなった場合、灰色の封筒へ入れて返す。同行勤怠室の場所を知る者はいなかったが、同棲や結婚をすると翌朝には必ずカードが増えていた。

杜若の二枚目には、恋人の名字ではなく〈待機者一名〉と印字されていた。会社は誰と暮らしているかまで聞かない。彼はそれが気楽だった。

恋人の莉央は在宅で映像編集をしていた。杜若が出勤するときは眠っていて、帰るころには仕事中だった。二人の会話は冷蔵庫の付箋で続いた。

〈牛乳ない〉

〈金曜、家で食べる?〉

〈今月の家賃、半分お願い〉

同行カードを打刻すると、時刻の下に莉央のその日の生活音が一つ印字された。キーボード、洗濯機、包丁。杜若はそれを確認してから働いた。部屋に人がいるという証明だった。

ある朝、カードに何も印字されなかった。帰宅すると、莉央の机と服がなくなっていた。冷蔵庫に付箋が一枚ある。

〈一緒にいるのに、待つ人にされたくない〉

灰色の封筒へ返すべきだった。だが杜若は翌朝も二枚を持って会社へ行き、いつもどおり打刻した。カードには冷蔵庫のモーター音が印字された。次の日は水道管、その次は誰もいない部屋の火災報知器。

同僚は「待ってくれる人がいていいな」と言った。杜若は笑い、退勤時に二枚目を先に打った。

一週間後、本人カードを差す前に、同行カードが機械へ吸い込まれた。誰も触れていないのに打刻音が鳴る。時刻は午前零時。印字は〈退去完了〉だった。

規則では、待つ人が先に出勤した場合、本人はその日を欠勤しなければならない。杜若は上司へ告げ、帰宅した。

部屋の鍵は開いていた。室内には家具が一つもなく、床の中央にタイムレコーダーだけが置かれている。差込口から二枚目のカードが半分出ていた。

杜若が引き抜くと、表面は透明になっていた。向こう側に、莉央が新しい部屋で机を組み立てる様子が小さく映っている。彼女は一度だけ顔を上げたが、こちらは見なかった。

カードの下端には、まだ打刻されていない欄が一つ残っていた。そこへ冷蔵庫から剥がれた付箋が貼りつき、紙の角だけが、誰かを待つようにゆっくり反っていた。