二十四匹目の犬
仁科原菫は、二十三匹の犬を見送った。
人間の不老化技術は犬には使えなかった。代謝が違い、処置をすると数年で苦しむことが分かっていた。犬は十五年前後で老い、死ぬ。菫だけが同じ顔のまま残った。
最初の犬を失ったとき、二度と飼わないと誓った。半年後に二匹目を拾った。二匹目を失い、また誓った。三百年の間に誓いは二十三回破られ、庭には二十三個の小さな墓標が並んだ。
墓標には、モモ、陸、フーガ、麦と、時代ごとの名前が並んでいた。犬たちは戦争や遷都や海面上昇を知らず、ただ毎朝の散歩を待った。菫はその単純さに救われ、同じ理由で別れのたびに壊れた。
二十三匹目のハクを埋めた日、菫は首輪も食器もすべて捨てた。今度こそ終わりにするつもりだった。
一週間後、霊園の門に茶色い子犬がいた。後ろ脚を引きずり、菫の靴紐を噛んだ。
「私じゃない人を選びなさい」
子犬は聞かなかった。霊園の管理人が笑った。
「犬にとっては、あなたが永遠かどうかなんて関係ないですよ」
「関係ある。私は必ず残される」
「でも犬は、一生ぶん一緒にいてもらえる」
菫は子犬を置いて帰った。翌日も門にいた。三日目は雨だった。菫は傘を差しかけるだけのつもりで抱き上げた。胸に触れた心臓は、早く、短い時間を惜しむように鳴っていた。
名前を〈今〉にした。診察券の生年月日欄には、推定の日付を書いた。終わりが分かっていても、始まりには日付を与えたかった。
今は靴を三足壊し、ソファを掘り、菫の二十三の墓参りについてきた。墓標の匂いを一つずつ嗅ぎ、最後に何もない場所で座った。
「そこは、あなたの場所じゃない」
菫が言うと、今は尻尾を振った。
十年後、今の口元に白い毛が混じった。菫は見ないふりをしなかった。歩く速度を合わせ、階段では抱き上げた。悲しみが近づくほど、毎日の輪郭は濃くなった。
不老不死になってから、菫は時間を暦では測れなかった。犬と暮らすあいだだけ、朝は一回きりで、散歩道の春は二度と同じではなかった。
二十四個目の墓を恐れながら、菫は今日の首輪を締めた。