二台同時に鳴った通知

相良日和は、恋人の家族との初めての食事で、スマホを裏返して置いていた。

食卓では結婚の時期や仕事の話が続く。日和が隠しているのは借金でも過去の恋人でもない。アイドルグループMellow Beatを追うファンアカウント「ひよこ時計」だ。毎朝六時に推しの過去映像を紹介し、界隈では少し知られている。

デザートが運ばれた瞬間、日和のスマホが鳴った。向かいに座る恋人の姉のスマホも、同じ通知音を立てた。

姉が画面を見て笑う。

「ひよこ時計さん、今日は更新遅かったんだ」

日和の背中に汗がにじんだ。通知のプレビューには、自分が投稿したばかりの文章が表示されている。

恋人が「何の話?」と聞く。姉は答えかけ、日和の手元にある黄色いスマホリングを見て止まった。それは「ひよこ時計」が写真へ必ず写り込ませてしまう、非公式グッズだった。

姉の目が大きくなる。

日和は首を横に振った。今ここで家族全員へ説明する勇気はない。

姉は一秒で表情を戻した。

「毎朝、元気をくれる人の話。個人情報は秘密」

食事のあと、洗面所の前で二人きりになると、姉は小声で自分のアカウント名を告げた。日和が何年もやり取りしている「眠い金魚」だった。

「お義姉さんになるかもしれない人が、眠い金魚さん」

「ひよこ時計さんが妹になるかもしれないのも、かなり面白い」

姉は半年前から、日和の投稿写真に写るテーブルと恋人の部屋の木目が同じだと気づいていた。それでも確かめなかった。家族になることは、相手の引き出しを全部開ける権利を得ることではないと思ったからだ。日和はその言葉を聞き、秘密を話すことと、秘密を奪われることの違いをようやく言葉にできた。

二人は声を殺して笑った。

帰り際、日和は自分から恋人に「ずっと続けている趣味がある」と話した。アカウント名まではまだ言わない。それでも、休日の早起きを仕事と偽るのはやめた。

翌朝六時、「眠い金魚」から最初の反応が来た。

〈今日から親族枠で応援します。身内びいきはしません〉

日和は初めて、画面の向こうの人の顔を思い浮かべて笑った。