二重に鳴る注文票
雨の午後七時、三つの店名を同じ厨房で動かすデリバリー専門店は注文が集中した。赤い丼、黒いカレー容器、紙箱のサンドイッチが同じ作業台を流れ、入口には濡れた配達員が列を作っている。店名が違っても、揚げ場と炊飯器は一つだった。井波理人の背後で、オーダープリンターが同じ音を二度鳴らした。
「唐揚げ丼、二つ追加!」
調理担当が鶏肉を油へ入れようとした。理人は二枚の紙を重ねた。住所も商品も同じだが、客が二回注文したのではない。受付番号の末尾六桁まで一致している。
デリバリー端末が一度通信を失い、復旧時に未印刷分を再送していた。紙の上では新しい注文に見えるが、端末上の件数は増えていない。ここで二つ作れば食材が無駄になるだけでなく、先に来た配達員へ二袋渡してしまい、後続の注文を一つ失う。
受け渡し口からは「まだですか」と声が飛んだ。理人は完成時刻を約束せず、番号を確認しているとだけ伝えた。急いで袋を渡せば、同じ住所へ二人の配達員が向かい、別の客の料理が棚に残る。混乱は厨房より道路へ出た後の方が戻しにくい。
理人は揚げる直前の鶏肉を戻し、再接続した時刻以降の注文票を十枚抜いた。受付番号を端末と照合すると、重複は四件あった。厨房全体を止めず、重複票だけを赤いクリップで束ねる。完成品には店名ではなく受付番号を大きく書き、受け渡し口でも番号を読み上げる手順へ変えた。
「紙が二枚なら、二個じゃないんですか」
新人が聞いた。
「紙は音を二度鳴らす。客は一度しか払ってない」
棚の料理にも赤いクリップと同じ印を付けた。紙だけ直しても、袋の側で再び取り違えれば意味がない。
七時半、四人の配達員がほぼ同時に来た。理人は袋の店名に惑わされず、番号順に渡した。余った料理も、行方不明の注文もなかった。
最後の一人が出た瞬間、別会社の端末が更新を始めた。画面が暗くなり、隣のプリンターが三度続けて鳴った。
理人は赤いクリップをもう一束、受け渡し台へ置いた。