亡王との乾杯
「完全模倣の亡王はソロ殺し」
「殴れば倍で殴り返す、避けても倍速で避ける」
「雨宮琴音、酒瓶一本で宴会か?」
雨宮琴音は、透明な小瓶を掲げて玉座の間へ入った。
亡王レプリカは挑戦者の動作を一瞬で複製し、同じ行為を二倍の力で返す。剣を振れば二倍の斬撃、魔法を唱えれば二倍の魔法。複数人で異なる行動を重ね、模倣処理を溢れさせるのが唯一の攻略法とされていた。
琴音は戦闘職ではなく、葬儀を手伝う下級神官だった。討伐隊の募集では“回復量不足”で何度も落とされたが、死者に何が効き、生者には何も起こさないかだけは、誰より知っている。
琴音が右手を上げる。
亡王も錆びた杯を右手に持ち上げた。彼女が一歩進めば、王も二歩進む。距離はたちまち縮まり、空洞の眼窩が配信画面いっぱいに映る。
「動くほど追いつかれるぞ」
「瓶の中身、回復薬?」
「回復したら王も回復するだけだろ」
琴音は栓を抜いた。
甘い香りも、魔力の光もない。ただの水に見える。亡王は同じ動作を二倍の速さでなぞり、玉座脇の壺から液体を杯へ満たした。
琴音は葬儀で何度も使った言葉を、少しだけ変えた。死者へ安らぎを願う声ではなく、相手が必ず真似したくなる明るい調子で瓶を掲げる。
「では、陛下。ご長命を」
琴音は一度、小瓶を飲み干した。
亡王も杯を空にする。
次の瞬間、王の肋骨の内側から白い炎が噴き上がった。琴音が飲んだのは、神殿で祝福された聖水。生者にはただの水だが、死者には最上級の浄化薬となる。
模倣の規則は動作だけではない。
“飲み干した物の性質”まで二倍にして再現する。亡王は自ら、二倍濃度の聖水を存在の中心へ流し込んだのだ。
「攻撃じゃないから反撃判定なし!」
「王の生成物まで聖水へ変換された」
「乾杯一回で内部浄化……」
「しかも琴音は一滴もこぼしてない」
白い炎が消えると、玉座には王冠だけが残った。
琴音は空瓶を逆さにし、最後の一滴もないことを見せる。
公式判定欄へ、妙に丁寧な文面が表示された。
【単独討伐を認定。死因:本人による祝杯】