交換したのは機械

羽生田梓は卓上の「整列」ボタンを押した。

天井から降りた白い機械腕が、梓の一と鵜飼剛の九をつまみ、互いの前へ置き直す。腕の操作記録には、実行主体として機体番号だけが表示された。城ヶ崎映見の五は動かない。

剛が九を取り戻そうと立ち上がったが、拘束帯が締まった。

壁の規則は一行だった。

〈終了時、カードを交換した参加者のうち、最小数字を持つ一名を処刑する〉

剛と映見は「全員が交換者になる」と思い、誰へ低い札を押しつけるか相談していた。梓は最初から一。普通に交換すれば、相手から何を受け取っても、交換者として判定対象になる。

だから自分では交換しなかった。

「機械腕が交換した」と梓は言う。

『ボタンを押したあなたの行為です』

「私がしたのは整列命令。カードをつまみ、運び、置いた主体は機械」

『道具を使った行為は使用者に帰属します』

「それなら、この部屋で首輪を作動させるのも、ボタンを押す主催者の殺人として帰属するね」

スピーカーが黙った。

残り二分。剛は梓の九と自分の一を手で交換し直そうとする。しかしそうすれば、彼自身が「カードを交換した参加者」になり、一を持つ最小者として処刑される。

映見も五を守ったまま動けない。誰も手を出さなければ、交換した参加者は存在しない。

終了ベル。

判定カメラが動作記録を照合する。

〈機械腕による位置変更を一件確認〉

〈カードを交換した参加者、該当なし〉

〈処刑対象、該当なし〉

三つの首輪が安全解除された。

『勝者を決められないため、再試合を――』

梓は外れた首輪を整列ボタンの上へ置く。機械腕がそれを中央へ片づけた。

「規則は勝者を一人決めるものじゃない。処刑する一名を決めるもの。該当者がいなければ、全員の勝ち」

剛は一を見つめ、映見は小さく息を吐いた。

梓は機械腕へ一礼する。

「交換してくれてありがとう。あなたは参加者じゃないから、誰も死なずに済んだ」

白い腕は返事の代わりに三枚を一直線へ並べ、開いた出口を指した。