交換条件は牛乳一本

好きな人の隣になるため、教室で席の交換取引が始まった。

最初に動いたのは友達だった。彼は窓際の後ろを引き、僕の隣の席を欲しがった。そこからなら好きな子の斜め前になる。

「牛乳一本でどう?」

「安い」

「一週間」

僕は廊下側の真ん中が嫌だったので、取引に乗った。

ところが僕の移動先を欲しがる別の生徒が現れた。黒板が見やすいからだという。彼は給食のプリン二個を提示した。

さらに、その生徒の席を欲しがる子が来た。暖房の近く。交換は鎖のようにつながり、休み時間の教室が市場になった。

先生は「本人同士が納得して、列が崩れなければ」と呆れながら許した。

最終的に僕は、窓際の最後列へたどり着いた。

誰もが欲しがる席。しかも隣には、あまり話したことのない無口な子がいた。

「何でここ、手放さなかったの」

彼女は窓の外を見たまま答えた。

「欲しいものがなかったから」

その言い方が少し寂しく聞こえた。

席替えから数日、僕は取引の報酬を受け取った。牛乳、プリン、パンの交換券。机の中は戦利品でいっぱいになった。

隣の彼女は毎日弁当で、給食の時間になると本を読んでいた。

「プリン食べる?」

聞くと、彼女は首を振った。

「甘いもの苦手」

「じゃあ牛乳」

「もっと苦手」

「欲しいもの、ほんとにないんだ」

彼女は少し考えた。

「静かな時間」

その日から、昼休みの最初の十分だけ、僕は話しかけないことにした。友達が取引の結果を聞きに来ても追い返した。窓から風が入り、ページの音だけがした。

十分たつと、彼女が本を閉じた。

「今日の報酬」

小さな包みを机に置いた。中には塩味のクラッカーが二枚。

「取引成立?」

「継続希望」

僕らは毎日、静かな十分とクラッカーを交換した。

一方、友達は好きな子の斜め前になったものの、緊張して一度も話せなかった。牛乳だけが毎日僕の机へ届いた。

次の席替えの日、今度は交換禁止になった。

僕は教卓前、彼女は廊下側の後ろ。離れてしまった。

昼休み、僕が騒がしい友達に囲まれていると、彼女がクラッカーを持って来た。

「空いてる席、ある?」

僕は隣の椅子を引いた。

取引で得た一番いいものは、窓際の席でもプリンでもなかった。交換が終わっても続く、静かな十分だった。