休職を欠勤にしない

人材評価システムの公開前テストで、南雲映里は青柳梨花の経歴を入力した。

梨花は翌日から産休に入るプロダクト責任者だ。最後の引き継ぎは、応募者を自動で順位付けする新機能の公開だった。テスト用の経歴なら誰のものでもよかった。梨花は冗談半分に、自分の職歴と、これから一年休む予定を入れた。

結果は〈継続性に懸念・推薦対象外〉だった。

会議室が静かになった。開発責任者は「産休予定なんて本番データには入らない」と画面を閉じようとした。だが映里は、判定理由の内訳を開いた。育児休業、介護休業、留学、病気療養がすべて〈就業していない月〉として数えられ、六か月を超えると自動で順位が下がる。

公開は一時間後。営業はすでに顧客へ案内していた。

映里は公開を保留にし、休業区分を欠勤月から除外した。さらに、理由を入力しない空白期間も自動減点せず、企業が必要性を説明して確認する仕様へ変える。後輩のエンジニアが「数値目標が下がります」と心配すると、映里はテスト結果を指した。

「下がるのは推薦数。人の価値じゃない。まず、何を数えていたかを書こう」

映里は介護休業を取った架空の営業職、病気療養から復帰した技術者、卒業後に家族を支えた若者の経歴でも試した。どれも、休んだ理由を入力した瞬間に順位が落ちていた。会議室の窓には、公開を祝うため用意された紙吹雪の箱が映っている。映里は箱を閉じ、テスト結果を全員の画面へ共有した。

修正版では、梨花の経歴は技能と実績で上位に戻った。公開は翌週へ延期され、営業部からは苦情が来た。

梨花は自分のアカウントを閉じながら言った。

「私が戻る頃には、担当が別の人でも構わないよ。これを止めた人が持つべきだから」

役員は映里へ、公開延期の責任者名を記すよう求めた。予定どおり出せば、今期の評価は守られる。止めれば、昇格審査は遅れる。

映里は管理画面で状態を〈公開停止〉へ変えた。理由欄に休業差別の可能性を書き、改善責任者の欄へ自分の名を入れる。

そのまま、確定を押した。