兄妹みたいの続き
「二人は兄妹みたいなものだから」
牧瀬杏南と江見泰雅が同じ食卓に座るたび、両家の親はそう言った。
家が向かいで、三歳から一緒。泰雅は杏南の自転車を直し、杏南は泰雅の受験票を忘れないよう鞄へ入れた。大学で別々の街へ出ても、親同士の報告で互いの近況だけは知っていた。
七年ぶりに二人そろって帰省した年末、両家合同の鍋会が開かれた。泰雅は東京勤務、杏南は京都。会えたのは嬉しいのに、座席は当然のように隣で、母たちは「昔と変わらない」と笑う。
変わらないと言われるほど、杏南は何も言えなくなった。子どものころなら同じ布団で昼寝さえした。その記憶があるせいで、今の胸の速さを口にすれば、家族の思い出まで壊す気がした。
食後、泰雅がコンビニへ行くと言い、杏南も外へ出た。冬の道を歩きながら、彼が尋ねる。
「京都、来年もいる?」
「たぶん。泰雅は?」
「四月から関西支社」
足が止まった。親からは聞いていない。泰雅は自分で先に伝えたかったという。
「大阪なら、近いね」
「近いだけで会えるなら、今までも会ってた」
泰雅はスマホを差し出した。四月最初の土曜、京都の川沿いの店が二名で予約されている。その翌月は大阪の美術館。さらに先には《杏南の行きたい場所》と空欄の予定。
「兄妹なら、こんな予約しないでしょ」
言葉はそれだけだった。彼は杏南の返事を急かさず、ポケットへ手を戻そうとする。
杏南はその手をつかんだ。手袋越しでは足りず、自分の右手袋を外し、泰雅の左手袋も引き抜く。冷たい指を直接絡めた。
家へ戻ると、母が玄関で笑った。
「やっぱり仲良しね。兄妹みたい」
杏南はつないだ手を隠さなかった。泰雅のスマホで予定を承諾し、件名を《京都案内》から《杏南と泰雅》へ変える。
「兄妹なら、名字が違っても家族だけど」
杏南が言うと、泰雅が指を握り返す。
「俺たちは、名前で次を決めるほうがいい」
二人は兄妹みたいなものだった。
その夜までは。家族だから離れない関係ではなく、会うたび選び直す二人になると、手の温度で決めた。