先生も五時間目をサボる
五時間目の体育を抜け、非常階段へ逃げ込んだら、担任がアイスを食べていた。
白いシャツの袖をまくり、コンビニの袋を足元に置いて、棒アイスをかじっている。僕を見た担任は、僕が担任を見たのと同じ顔をした。
「お前、なぜここにいる」
「先生こそ」
「巡回だ」
「アイス持って?」
「熱中症対策だ」
校庭では持久走が始まっていた。七月の午後、照り返しで白線が揺れて見える。僕は走るのが嫌で逃げた。担任は職員室の冷房が壊れ、会議から逃げたらしい。
「戻れ」
「先生が先に戻ったら」
「取引するな」
担任は言いながら、袋からもう一本アイスを出した。
僕らは踊り場に並んで座った。僕のはソーダ味、担任のはあずき味。立入禁止の札が頭上で風に揺れていた。
「先生もサボるんですね」
「休憩だ」
「僕も休憩です」
「お前は授業中だ」
「先生も勤務中です」
担任は反論せず、棒をかじった。
そのうち校庭から笛が聞こえた。走る生徒たちの列が、小さく見えた。僕は運動が苦手なだけではない。先週、リレーの練習で転び、みんなの前で笑われた。今日の持久走でも最後になるのが分かっていた。
「転んだの、気にしてるのか」
担任が前を向いたまま言った。
「別に」
「別にって顔じゃない」
「先生こそ会議、嫌なんですか」
「嫌だ」
あまりに即答なので、僕は笑った。
担任は若いころ、体育の授業でいつも最後だったらしい。教師になれば走らなくて済むと思い、勉強した。ところが体育祭では教員リレーを走らされる。
「人生、逃げても別のコースが待ってる」
「説教ですか」
「愚痴だ」
アイスが溶け、指に垂れた。
「でもな、最後でも、走り終われば給水は同じだ」
「名言っぽいけど普通ですね」
「教師の話はだいたい普通だ」
予鈴が鳴った。担任は立ち上がり、空の袋をまとめた。
「戻るぞ」
「一緒に?」
「私は巡回中、お前は迷子。そういうことにする」
校庭へ戻ると、体育の先生が腕を組んで待っていた。担任は僕をかばうどころか、「一周追加で」と言った。
裏切られたと思った。
けれど一周目の途中、校舎の非常階段を見ると、担任が手すりにもたれていた。会議へ戻らず、僕が走るのを見ている。
僕が最後にゴールすると、担任はアイスの棒を掲げた。
誰にも見えないくらい小さく、僕も手を上げた。
翌日の教員リレー申込表に、担任の名前があった。僕は勝手に、応援団の欄へ自分の名前を書いた。