全員に見える一人
五十里昂は、中央モニターを指した。
画面には仮面の司会者が大写しになっている。透明でない仕切りに隔てられた苅谷野充、阿久津谷遼介、日向寺咲良には、互いの姿が見えない。声は通るが、各区画の覗き窓は最初から黒い板で塞がれている。開ける取っ手もなく、視線を共有できるのは中央映像だけだった。それしかない。
規則は一つ。
〈四人全員が現在見ることのできる一人を犠牲者として指定せよ。指定が一致すれば、参加者を解放する〉
各区画には三人分の名前ボタンがある。主催者は、声だけを頼りに「本当にその人を見ているか」を疑わせ、合意を壊すつもりだった。
昂は名前ボタンへ触れず、モニター下の入力欄に〈司会者〉と打ち込んだ。
『私は候補者ではありません』
「候補者とは書いてない。いま四人全員が見られる一人は、あなたしかいない」
充が壁越しに叫ぶ。
「俺には司会者が見えている!」
遼介と咲良も続いた。四つの区画で、同じ画面が同じ映像を流している。参加者同士は誰一人、全員から見られていない。
司会者は慌てて映像を切った。画面が黒くなる。
しかし昂は、規則の「現在」がいつを指すか確かめていた。指定ボタンを押した瞬間、装置は証拠画像を保存する。黒くなる一秒前、四画面には同じ仮面の顔が残っていた。
〈指定時画像を照合〉
〈四名の視界に共通する人間、一名〉
『仮面では本人を特定できない』
「顔を特定しろとは書いてない。画面中央にいる一人で十分」
生体追跡枠が、画面の司会者と制御室の熱源を結ぶ。
〈指定一致〉
四つの首輪が外れた。代わりに、モニターの向こうで司会者の管理環が閉じる。
咲良が笑いながら泣いた。
「私たちを分断するための画面だったのに」
昂は黒くなったモニターへ答える。
「分断したせいで、共通して見える人が一人になった」
仕切りが上がり、四人は初めて顔を合わせた。誰も互いを選ばなかった。主催者が全員の視線を集めたがった虚栄心だけが、四人の答えを一つにした。