六分早い入室者

懲戒審査のオンライン会議に入ると、「元社員」という参加者がすでにいた。

開始予定より六分早い。人事は、私の不正を目撃した参考人だと説明した。

元社員は、私が経費を水増しし、発覚後に口止めを頼んだと証言した。

部長は沈痛な顔で頷き、私へ退職勧奨書を示した。

「目撃者までいる。争えば懲戒解雇になる」

私は元社員に、いつ口止めを頼まれたか尋ねた。

「今月三日の午後」

その日は元社員の退職後で、私は出張中だった。それでも部長は、オンラインで連絡できると言った。

私は会議の入室ログを開くよう求めた。

元社員は九時五十四分に入室。主催者である部長は十時ちょうどに入室したことになっている。

「主催者より先に、待機室を通らず入ることはできません」

人事が詳細を確認すると、部長は九時五十二分に携帯から一度接続し、元社員を許可したあと退出していた。つまり偶然紛れ込んだ参考人ではなく、事前に会議へ招き入れていた。

部長は参考人なら当然だと開き直った。

私は共有フォルダの更新履歴を示した。元社員の証言書は九時五十七分に作成され、九時五十九分まで三回書き換えられている。作成者は元社員ではなく部長。元社員が会議へ入ったあと、二人で証言内容を整えていた。

さらに証言書には《今月三日、会議室〈波止場〉で口止めされた》とある。会議室予約では、その時間に部長と元社員が二人で使用していた。私は別支店の入館記録が残る。

経費申請の原票も開かれた。水増しとされた金額を入力したのは部長の代理権限で、元社員の復職面接予約がその五分後に作成されている。証言と引き換えの条件が、予定表と更新時刻の並びにそのまま残っていた。

元社員が俯いた。

「復職を条件に、言われたとおり書きました」

人事は退職勧奨書を閉じ、懲戒対象者の欄を書き換えた。

「審査をやり直す必要はありません。事実は揃いました」

私の名前が消え、部長の名前が入る。

「退職を勧められる側が、今入れ替わりました」