六月まで効くもの

防虫剤の小袋には、「交換目安 今月」と薄く印字されていた。

余命を告げられて家へ戻った長峰瑞希は、コートの袖に触れたその袋を外した。

十一月の夕方だった。医師は春まで持つかどうか、と言った。病院を出たとき、街路樹の葉が一枚、瑞希の肩へ落ちた。家に着いてコートを掛けると、古い防虫剤の小袋が袖へ触れた。

袋の印字は「交換目安 今月」。いつから下がっていたのか、文字が薄くなっている。隣には妹の白いコート、奥には二人で共用している喪服。特別な服ほど、着ないあいだに虫に食われる。

瑞希は椅子を持ってきて、上段の収納箱から買い置きを出した。新しい防虫剤は六個入りで、効果は約六か月。六月まで、という意味になる。

妹はまだ大学から帰らない。朝、病院へ行く瑞希に「帰りに牛乳」と頼んだまま、診察のことは詳しく知らない。牛乳は買い忘れた。代わりに防虫剤の袋だけが、瑞希の手の中で乾いた音を立てた。

古い小袋を一つずつ外す。肩のあいだ、引き出しの隅、衣装ケースの蓋。妹のコートのポケットから去年の映画半券が出てきたが、瑞希は戻した。今日はポケットの整理ではない。薬剤の匂いはほとんど消え、布の埃だけが指についた。全部で五個。新品は六個なので、一つ余る。

瑞希は説明書を読む。衣類の上方に置くこと。同じ種類を使うこと。密閉すること。余った一個を来年の交換用に残すべきか迷い、箱へ戻した。誰が替えるにしても、一個では足りない。それでも捨てる理由もない。

新しい小袋を開けると、樟脳とは違う、ほとんど無臭の空気が出た。交換月を書く欄があった。油性ペンで「六月」と記す。書いた瞬間だけ、その月が住所のように具体的になった。瑞希は数字を書き足さなかった。

一個目を自分のコートの横へ、二個目を妹のコートの横へ。衣装ケースにも二個、喪服のカバーへ一個。最後の一個は、二人のマフラーが重なる棚へ置いた。

玄関で鍵が回り、妹が「牛乳は?」と声を上げた。瑞希は返事をせず、クローゼットの扉をゆっくり閉めた。

白い小袋はすべて、衣類より高い位置に収まった。