冬のコート、査定額百円

玲未が父から押しつけられた冬のコートは、リサイクル店で百円になった。

査定票を見た父は、カウンターの前で声を上げた。

「そんなはずあるか。カシミヤだぞ」

店員はタグを確かめ、「混紡ですね」と丁寧に答えた。

父は納得せず、袖口や裏地を次々に示した。玲未は隣で、自分の番号札を指に巻いた。今日は父の家の衣類を一袋だけ売る約束だった。ところが父は最後に、茶色いロングコートを玲未の肩へ掛けた。

『これはお前が着ろ。薄い上着ばかり着ているから風邪をひく』

子どものころから毎冬、同じ形の服を選ばれた。膝まで隠れ、色は茶か紺。玲未が黄色いダウンを欲しがると、父は「目立つ」「安っぽい」と棚へ戻した。今、玲未が着ているのは明るい緑の短いコートだった。

「百円で売ります」

玲未が言うと、父は振り向いた。

「お前にやると言っただろ」

「いらない」

「まだ着られる」

「着られることと、着たいことは別」

「寒さは好みで決めるものじゃない」

「寒かったら、私が選んだ服を買う」

店員が伝票を持ったまま、視線を落としている。玲未は申し訳なく思ったが、父と外へ出れば、コートはまた腕に掛けられる。ここで決めるしかなかった。

父は茶色い布をつまみ、ため息をついた。

「百円か」

「うん」

「お前、これを着て成人式のあと帰ってきただろ」

「覚えてる。重かった」

「暖かかったはずだ」

「重かったことのほうを覚えてる」

父の指が離れた。コートはカウンターの上で平たくなった。

「じゃあ売れ」

店員が確認する。

「よろしいですか」

父は玲未ではなく、コートを見てうなずいた。

精算機から硬貨が一枚出た。玲未はそれを父へ渡した。父は受け取らず、「お前が持て」と言った。

「私の服じゃない」

「もう俺のでもない」

二人は店を出た。自動扉の外で風が吹き、玲未の短い裾が揺れた。父は反射的に「前を閉めろ」と言いかけ、口を閉じた。

玲未は自分でファスナーを上げた。

「寒いか」

父が尋ねた。

「少し。でも平気」

「そうか」

父は百円玉をポケットへ入れた。軽すぎる査定額だったが、玲未の肩からは、ようやく一着分の重みが消えていた。