冬至の魔女裁判
冬至の日、村の処刑台には雪が積もらなかった。
領主ヘルメンが、魔女ウルシャを凍らせるため、台の下へ火を焚かせていたからだ。皮肉なことに、暖を求める村人たちはその周囲へ集まった。
領主館の薪蔵は満杯だったが、村へ配る薪は「吹雪による不足」とされた。ウルシャは処刑前夜まで、水路の氷を割って各家へ水を運んでいた。
「吹雪を呼び、収穫を奪った罪を認めるか」
ウルシャは裸足で杭の前に立っていた。灰色の髪を一本の紐で結び、両手は前で縛られている。
「吹雪は北から来た。私は南の水路を直していたよ」
「魔女は天気にも嘘をつく」
ヘルメンの背後には、収穫税で集めた麦袋が積まれていた。処刑が終われば領都へ売る荷だ。村人の腹が減った理由も、空のせいにするつもりだった。
領主が氷杖を向ける。
細い氷槍が放たれ、ウルシャの胸を正面から打った。杭が砕け、雪煙が舞う。村人が息を呑んだ。
白い粉が落ち着くと、彼女は同じ場所に立っていた。
胸元に穴はなく、縛られた両手の位置も変わっていない。氷槍だけが細かな霜となり、足元へ散っていた。
ヘルメンは杖の宝石を確かめた。
「古い術で逸らしたな」
「お前さんの杖よりは、私のほうが古いかもしれないね」
誰かが笑いかけ、慌てて口を塞ぐ。
領主の従者は氷槍の破片を拾い、すぐ手放した。魔力は残っている。術は確かに発動し、確かに命中した。それなのに、魔女の裸足の周りだけ雪すら乱れていなかった。
領主は杖を雪原へ突き立てた。空の雲が渦を巻き、処刑台だけを囲む氷嵐になる。家畜小屋を一晩で埋める術を、彼は一人へ集中させた。
「春まで氷柱の中にいろ!」
風が吠える。
雪と氷の壁が十メートルまで盛り上がり、処刑台を完全に隠した。村人たちは火のそばでも震え、領主は白くなった指で杖を握り続ける。
やがて嵐が止み、巨大な氷塊が残った。
その中心に、ウルシャの影が見える。
両手を前に縛られた、最初と同じ姿勢。
ひびは内側からではなかった。彼女の体に触れた部分から、氷塊全体へ外向きに走っていた。
乾いた音が連なり、氷が崩れる。
ウルシャは雪の上へ立ち、肩に積もった一片を息で払った。
「水路を塞いだのは、その杖の氷だよ」
村人たちの視線が領主へ集まる。
ヘルメンが言い返す前に、氷杖の宝石が割れた。
続いて杖身も裂け、その手の中で砕けた。