凍った弁当
私の弁当に毒を入れたのは、向かいの席の女だ。
昼休み、ひと口食べた直後に喉が狭まり、私は床へ倒れた。救急搬送され、アレルギー反応だと診断された。弁当からは、私が避けているカシューナッツの粉が見つかった。
向かいの席の女とは、昇進枠を争っている。朝、彼女が給湯室から戻る姿を見たし、私の机の近くで鞄を開けていた。先週、役員面談の日程を教えなかったことを責められてもいる。動機は十分だった。私は倒れる直前、彼女の名を叫んだことまで覚えていた。
聞き取りに来た上司へ、私は保冷バッグを指した。
「蓋を開けたら、甘い匂いがしたんです」
上司は弁当箱の蓋に残る霜を見つめた。正午を過ぎても、内側には細かな氷の結晶が崩れず残っている。冷凍した弁当を食べたのだから不自然ではない、と私は言った。
「病院では、検査前にカシューナッツだと話したそうですね」
救急隊の記録には、意識が薄れる前に私が「粉は底に入っている」とまで告げたとある。混乱していたのだと笑った。
「匂いで分かりました」
本当は無味に近い粉だと、上司は言った。
向かいの席の女が会議室へ入ってきた。手には同じ柄の保冷バッグがある。私たちは以前、社内抽選で同じ品をもらっていた。
「今朝、私のバッグがあなたの机にありました」
彼女はそう言って、中から弁当箱を出した。まだ完全に凍っている。蓋には私の指紋と、粉を振りかけたときについた薄い傷が残っていた。
私は彼女の弁当にカシューナッツを混ぜ、昼に倒れさせるつもりだった。体調管理ができない人間として昇進候補から外すために。
だが、給湯室へ同じ柄のバッグを二つ運び、粉を入れる箱を取り違えた。彼女のバッグに残っていたのは、私の凍った弁当。私は自分で細工した箱を、自分の席へ持ち帰った。
私の救急カードにも軽いアレルギーは記されている。命に関わる重度の反応があるのは彼女のほうだった。粉の種類を検査前から知っていたのは、入れた本人だからだ。
毒を盛られた被害者ではない。
標的の弁当を取り違え、自分の罠を食べた加害者だった。