切り取らない二人
「二人で写ると、誤解されるよ」
一ノ瀬紫乃は、東條理玖がカメラを向けるたび手で顔を隠した。
二年前、紫乃は交際相手との写真を何度も投稿し、別れたあと周囲の好奇心に疲れた。それ以来、理玖と出かけても写真は景色だけ。誰かに関係を聞かれれば「ただの友達」と先に答えた。
理玖は何も言わなかった。料理の向こうに紫乃の手だけが写り込めばそこを切り取り、ガラスに二人の影が映れば投稿しない。アルバムには、二人で過ごした場所ばかりなのに、二人の姿だけがなかった。
共通の友人の結婚祝いで、写真スタジオを借りた日。撮影が終わり、予約時間が十分余った。
「せっかくだから二人も撮れば?」
友人に押され、紫乃と理玖は白い背景の前へ立った。肩の間には、もう一人入れるほどの隙間がある。
シャッターが切られる直前、紫乃はいつものように言った。
「あとで私だけ切ってね」
理玖は返事をせず、紫乃の手を取った。指を絡め、隙間を一歩で埋める。
驚いて見上げた瞬間、シャッター音が響いた。
撮影後、理玖は写真を二枚注文した。切り取りも修整もしていない。片方を紫乃へ渡し、もう片方は自分のスマホケースへ入れる。
「投稿はしないから」
「それなら、撮る意味ないでしょ」
「誰かに見せるためじゃない」
理玖はその場でスマホの予定表を開いた。来月の美術館、その次の海辺の町、さらに紫乃の誕生日。これまで《友人と外出》と登録していた予定を、一件ずつ《紫乃と》へ書き換えていく。
紫乃は写真の中のつないだ手を見た。現実の手も、まだ理玖に握られている。
「誤解されたらどうするの」
「何を?」
「恋人だって」
理玖は答えず、写真の裏へ日付と二人の名前を書いた。紫乃もペンを借り、《最初の一枚》と足す。
スタジオを出ると、友人たちが二人の手を見て笑った。紫乃はもう先に否定しなかった。
二人で写れば誤解されると思っていた。
けれど切り取らなかった一枚は、誰かの誤解ではなく、二人が選んだ呼び名の始まりになった。