初対面用の二本ストロー
その喫茶店では、マッチングアプリで初めて会う二人は、二杯目を頼む前に後悔販売機を使う。過去の恋愛から持ってきた物を一つずつ、相手に見せず投入する。説明は禁止。機械が一本の飲み物に二本のストローを挿せば、席を続けてよい。別々の缶が出たら、会計も別々にする。
眞鍋は窓際で、向かいの女性が小さな封筒を握るのを見ていた。名前は澄佳。写真より髪が短く、プロフィールに書かれていなかった左利きだった。会話は悪くない。好きな映画は合わず、嫌いな飲み会の種類は一致した。
「使います?」と澄佳が機械を見た。
「二杯目、飲みますか」
「機械次第ってことで」
眞鍋が持ってきたのは、前の恋人と撮った写真の切れ端だった。別れた日に顔だけ切り取り、捨てられないまま財布へ入れていた。後悔は、写真を残したことなのか、切ったことなのか、自分でも決めていない。
二人は背中合わせで投入口へ立った。先に澄佳の封筒が吸い込まれ、次に眞鍋の写真が入る。機械の内部で紙をめくる音が続いた。
液晶に〈一件は保存、一件は廃棄〉と出た。
「どっちだろう」と眞鍋が言う。
「説明は禁止」
「結果の感想も?」
「それは書いてない」
商品口へ透明な瓶が一本落ちた。蓋には二本のストローが挿さっている。ただし眞鍋側のストローは途中で固く結ばれ、澄佳側は先端が瓶の底まで届いていなかった。
二人はしばらく眺めたあと、同時に笑った。澄佳が結び目を爪でほどき、眞鍋は彼女側のストローを少し押し込んだ。飲み物はただの水で、かすかに紙の味がした。
三杯目まで話して店を出るとき、機械の返却口が開いた。中には投入した物ではなく、小さな銀色のSIMトレイが一枚あった。二つの穴の片方に写真の角、もう片方に澄佳の封筒から抜けた赤い糸が、別々の電話番号のように差し込まれていた。
駅前で連絡先を交換すると、二人の画面には相手の名前より先に、銀色のトレイの写真が登録された。澄佳が赤い糸を引くと、写真の角が一ミリだけ動いた。トレイは眞鍋の掌でかすかに震え、空いている二つの穴から別々の着信音を同時に鳴らした。