初心者盾が百枚になる日

《鬼塚砦、寄付された聖盾を横流しした疑惑》

《自分だけ初心者盾で清廉アピールか》

《雪崩相手に木の盾一枚。救助する気ないだろ》

 氷食山の斜面を、白い壁が落ちてくる。

 避難洞の前には、動けない訓練生が三十人。救助用結界は魔力切れで、雪崩到達まで十二秒だった。

 鬼塚砦が持っているのは、傷だらけの丸い木盾だけ。炎上後、支援会の倉庫は監査で封鎖され、彼は横流し疑惑の説明会へ向かう途中だった。だが山の救難通知を見た瞬間、予定を捨てて登ってきた。

 彼は訓練生たちへ背を向け、盾の縁を雪へ当てた。盾の裏には、最初に装備を渡した新人たちの署名がびっしり刻まれている。

《高級盾の所在、まだ説明なし》

《あれ初期配布品、耐久二》

《一秒も持たない》

 砦は木盾を一度だけ地面へ突き立てた。

 盾の左右に、半透明の盾が次々と現れる。

 鉄、革、貝殻、骨、布張り。形も大きさもばらばらな百枚が弧を描いて連結し、巨大な防災壁となった。

 雪崩が衝突する。最初の一枚が軋むと、残りの盾が力を分け合い、白い奔流を二つに割った。避難洞の前だけが、静かな影になる。

 砦の技能《貸与陣》。自分が他人へ譲った防具を、緊急時に一度だけ残像として呼び戻す。寄付された聖盾も、彼の倉庫にはなかった。

《盾の銘を照合中》

《全部、初心者支援会の貸与台帳にある》

《聖盾十二枚も新人パーティーへ無償譲渡済み》

《横流し先じゃない。持ち主の名前と顔まで公開されてる》

 雪煙が晴れた。

 砦の木盾は真ん中から割れたが、背後の三十人には雪ひとつ届いていない。

 訓練生の一人が、自分の腕にある小盾を掲げた。雪崩の衝撃で腕は痺れているはずなのに、震えながらも高く持ち上げる。それは半年前、砦から渡されたものだった。

「次は僕が誰かに貸します」

 別の訓練生も、また一人も盾を上げる。

 砦は割れた初心者盾を拾い、照れたように鼻をこすった。

《支援が壁になった》

《砦本人が高級装備を使わない理由、全部配ったからか》

《三十人無傷。雪崩ルートも完全分断》

《同接が盾の数より増え続けてる》

 画面の人数欄が、雪山配信の国内記録を塗り替えた。

【同時視聴者数:1,500,000人】