勇者除名式の余興
勇者パーティーの除名式で、盾役モルドは拍手一つされなかった。
隊長ブラントは広場に集まった民衆へ、契約破棄書を掲げる。
「攻撃力ゼロの寄生虫を追放する! こいつがいなくても、我々は竜を倒せると証明しよう」
檻から灼炎竜ラギュラスが放たれた。事前に弱らせた竜を討ち、ついでにモルドへ最後の役立たずぶりを見せつける余興だった。
「せめて逃げろよ」と仲間の魔術師が笑う。
モルドは除名書を片手に、もう片方の手を外套のポケットへ入れた。
「退職金が書いてない。確認が終わるまで動けない」
ブラントは苛立ち、竜へ攻撃命令を出した。赤い吐息が広場を横断し、石像の勇者像まで腰から上を溶かす。
歓声は、炎の中で紙がめくられる音に変わった。
煙が晴れる。モルドは同じ姿勢で立ち、除名書の裏面を読んでいた。紙の角も外套の糸も焦げていない。
ラギュラスが一歩、爪を引いた。
竜には覚えがあった。迷宮で勇者たちへ何度炎を吐いても、いつも先頭の大盾に熱が吸われた。今、その大盾を持たない男から、同じ匂いがしている。
元仲間の治癒術師が、自分たちの古い装備を見下ろした。迷宮で焼け焦げたのは、いつもモルドの盾だけだった。四人が無傷で帰れた理由を、修理代の多さとしか考えていなかった。
「竜が弱っているだけだ!」
ブラントは聖剣を抜き、竜の首輪へ魔力を流す。
「全火嚢を使え。《獄門吐息》!」
黒赤い炎が地面を掘り下げ、広場の結界を内側から吹き飛ばした。仲間たちは防御魔法の裏へ逃げ、ブラントだけが結果を見届けようと踏みとどまる。
火が引く。
モルドはまだ同じ一文を指でなぞっていた。
「やっぱり退職金がないな」
「なぜだ……。迷宮では、あれほど傷だらけだっただろう!」
「お前たち四人分まで守っていたからだ。今日は俺一人しか守っていない」
モルドが顔を上げる。彼の背後では、逃げ遅れた民衆も、屋台も、落ちた花束さえ無傷だった。
広場の人々が、誰に守られていたのかをようやく理解する。
モルドは除名書を二つに破り、歩き出した。
聖剣を握ったブラントは、近づいてもいない元盾役から一歩退いた。