千二百枚の水車は百二十枚
粉挽き町の大水車は、今にも軸が折れそうだった。
新しい水車は金貨千二百枚。町議会は、製粉所の年間利益が三百枚しかないから買えないと否決した。古い水車の修理には毎年二百枚かかり、止まるたび小麦が腐っている。
「今年の費用へ千二百枚を全部載せるから、怪物に見えるんです」
古い水車が止まるたび、粉屋の前には小麦袋を抱えた村人が列を作った。再開まで三日、腐った袋は川へ捨てられる。議員たちは修理費を臨時支出として処理し続け、新設だけを「高すぎる」と拒んできた。結果として、安い判断を十年繰り返し、最も高い損失を払っている。
燈矢は新しい水車の模型を回し、その横へ十枚の年札を立てた。水車が一回転するたび、一年分の百二十枚だけを札へ置く。千二百という塊は消えないが、十年働く物を一年で使い切ったように扱う誤りが消える。傍聴していた粉屋たちは、修理で止まる日数を書いた黒札を並べ、百二十のほうが軽いと自分の目で確かめた。
燈矢は前世で固定資産台帳を担当していた。議員の前へ十枚の木札を並べ、一枚ずつ「一年」と書く。
新しい水車は十年使える。千二百枚を十枚の札へ均等に置く。一年あたり百二十枚。
古い水車の修理費二百枚より、毎年八十枚少ない。さらに停止がなくなれば、腐る小麦百袋、金貨百五十枚も救える。
議員たちは、机の端に置かれた千二百枚の大札と、十年分の百二十枚を見比べた。
反対派の議長は、現金は今出ると食い下がる。町の建設基金には千五百枚ある。問題は金がないことではなく、今年だけの利益が赤く見えることだった。
燈矢が作った帳簿では、水車は資産として十年残り、今年の費用は百二十枚。修理と腐敗を合わせた三百五十枚より、二百三十枚改善する。
製粉所主が新旧二枚の損益表を掲げた。古い水車なら利益三百。新しい水車なら五百三十。
議場の空気が反転した。
議長は否決印を削り、購入承認の朱印を押す。
「水車を注文する。固定資産台帳も必要だ」
町長は燈矢へ新しい帳簿を渡した。
「初代の町会計監督として、十年先まで見てくれ」