反対の反対

雨宮累は青いボタンを押し、そのまま矢萩千景の手首も青へ叩きつけた。

赤を押した須々木岳人が叫ぶ。「何をしている! 青は処刑賛成だぞ!」

表示された文は、わざと息を止めて読ませるように一行で流れていた。

《「全員を処刑しない案」に反対する票が全投票の半数を超えなければ全員を解放する》

赤いボタンには《反対する》、青いボタンには《反対しない》

主催者は説明の最後に早口で言った。

――処刑に反対するなら赤。賛成するなら青。

その直後、表示文は三秒だけ消えた。参加者の記憶を、口頭説明で上書きするためだ。累はまぶたを閉じ、助詞の順番まで暗唱して残していた。

岳人はその言葉だけを信じた。千景も赤へ手を伸ばしていた。累が止めなければ、赤二票で条件を失うところだった。

「文章を区切れ」

累は壁を指す。

「まず案は『全員を処刑しない』。それに反対する、つまり全員処刑を望む票が赤だ。赤が全投票の半数を超えなければ解放される。三人なら赤は一票まで」

千景が青から手を離そうとする。「でも司会は、処刑に反対なら赤って」

「司会の説明は規則じゃない。しかも『何の処刑に』反対かを省いた」

残り三秒。岳人が赤から青へ移ろうとしたが、一度押したボタンは沈んだまま戻らない。

集計。赤い表示が一度だけ明滅し、主催者の期待がそこで止まった。

反対する、一票。

反対しない、二票。

《反対票は全投票の半数を超えていません。三名を解放します》

首輪が開く。岳人は膝から崩れた。

「俺の赤票が、全員を殺す票だったのか」

「一票だけなら殺せない。二票目を急がせるため、主催者は口頭で意味を逆にした」

スピーカーから低い舌打ちが聞こえる。

《言葉尻を利用しただけだ》

「言葉尻で人を殺すゲームでしょう」

累は千景の手を放した。手首には青いボタンの縁が赤く残っている。

「多数決では、数える前に文を読む。賛成と反対は、何に対する賛否かを一語省くだけで、正反対になる」

出口が開く。岳人はもう累を疑わず、最初に彼の後ろへ立った。