同じ厚さのオペラ
関口実桜は、コピー機に残された給与明細を見てしまった。
入社二年目の男性社員。実桜より三歳下で、担当案件も少ない。それなのに基本給は、七年目の実桜より一万八千円高かった。
紙を本人の机へ伏せて戻し、何も見なかった顔で一日働いた。午後には、その後輩から見積書の作り方を聞かれ、いつも通り丁寧に教えた。彼を責めれば簡単だったが、金額を決めたのは彼ではない。だから余計に、怒りの置き場所がなかった。給料日の夜になっても、誰にも言えない。比較する自分が卑しいのかもしれない。彼に悪意はない。上司へ聞けば、扱いにくい社員と思われそうだった。
帰り道、実桜は細長いオペラを一つ買った。コーヒークリームとチョコレートが、黒と茶の薄い層になっている。
自宅で冷えたケーキへナイフを入れると、表面のグラサージュが小さく割れた。コーヒーの苦い香りが立ち、中の層は密に重なっていた。
実桜は定規を持ってきた。
六センチのケーキを、二センチずつ三つに切る。どれも同じ厚さだ。端だから小さい、途中から入ったから薄い、そんな言い訳はナイフの下では通らなかった。
一切れを皿へ置き、上から下まで一度にフォークですくった。甘い層だけ、苦い層だけを選ばず、一つの仕事として口へ運んだ。どの層も欠ければ味が変わる。顧客対応も、予算管理も、新人教育も、実桜の仕事から一つだけ抜き取ることはできない。
一切れを食べ終え、残り二切れは同じ間隔で箱へ戻した。明日、言葉を濁されても、自分が見た差まで曖昧にしないためだった。
実桜は上司へ面談を依頼した。本文には、年齢も性別も書かず、自分の職務等級と給与決定基準について説明を求めた。誰かの給料を下げたいのではなく、自分の厚さを根拠なく削られたくない。
送信後、箱の二切れを見比べた。完全に同じには切れていない。片方がほんの一ミリ厚い。
実桜は厚いほうを明日の自分へ残した。公平を求めることくらい、少し欲張りでちょうどよかった。