吹雪の気送管

南極の白夜観測所で、外気温マイナス四十度の吹雪の最中、玄関エアロックに小包が届いた。外扉は凍結して開かず、周囲の雪面にも跡はない。箱には、三日前に無人観測小屋から消えた隕石片が入っていた。

基地にいたのは通信士の黒田、機械技師の大槻、気象主任の速水。黒田は本国との交信、大槻は発電機の整備、速水は屋上計器の監視をしていた。三人とも隕石の分析権を争い、匿名の返却便に見せかける利益があった。吹雪は十時間続き、基地では風の轟音が壁を絶えず震わせていた。

隊医の白石が示した手掛かりは三つだった。小包の四辺には、直径二十五センチの円筒へ押し込まれたような丸い潰れがある。包装紙には、観測機器の密閉部に使う透明なシリコングリスが付いている。そして午前三時十二分、地下配管の圧力計に一度だけ手動噴送の波形が記録され、その操作元は大槻の整備卓だった。

黒田は、地上の通信ケーブルに物は通らないと指摘した。速水は、観測小屋まで二百メートルあり、人が出れば生命維持装置の記録が残ると言った。大槻は圧力波形を発電機の逆流だと説明したが、波形は弁を開き、空気を一気に送った時だけ生じる鋭い山だった。彼は古い設備は凍結していると主張した。白石は返事をせず、工具棚の奥に残る旧設備の図面を机へ広げた。

古い設計図には、観測所と無人小屋を結ぶ気送管が描かれていた。かつてフィルムや採雪試料をカプセルで運んだ設備で、入口は現在、工具棚に隠されている。箱を丸めてカプセルへ入れれば、外へ出ずにエアロック脇の受取槽まで送れる。

「円い潰れはカプセル内壁、グリスは気送管のパッキン、三時十二分の圧力波は発射そのものです。大槻さんは整備を口実に無人小屋側で隕石を仕込み、基地へ戻った後、卓から噴送した。吹雪の中を配達人が歩いたのではありません。地下の空気が荷物だけを運んだ。足跡がないことは不可能の証拠ではなく、地上を通っていないという最初の答えでした。無人小屋へ隕石を隠したのも、点検で一人になれたあなたです。吹雪が強まる時刻を待ち、誰も地下配管の音を聞き分けられない中で、古い郵便を一度だけ復活させたのです」