呪いは同じ箱に入れない

魔女ザラの工房で、七本の杖が同時に持ち主へ噛みついた。

 火の杖は氷を吐き、治癒杖は傷口へ黒い蔦を生やす。ザラが制御呪文を唱えるたび、床の鏡が笑い声を返した。

「誰が杖を壊した!」

 弟子たちは首を振る。壊れてはいない。荷箱の中で、呪いが混ざったのだ。

 昨日、荷物持ちフェリカを「魔法も使えない無能」と結界の外へ追放した。代わりの弟子は、回収した呪具を一本の銀箱へまとめた。銀なら呪いを封じると教わっていたからだ。

 だが銀は外へ漏らさないだけで、箱の中の呪い同士までは隔てない。

 フェリカは呪具ごとに木、塩、羊毛、鏡片を使い分け、決して同じ箱へ入れなかった。札には呪文ではなく、触れる順番と置く向きが書かれていた。ザラはそれを「字しか書けない者の仕事」と嘲った。

 最初の依頼で持ち帰った七つの呪いは、一晩で互いの性質を食い合った。工房の結界が紫に染まり、魔女たちは自分の杖から逃げ回る。封印室へ運ぼうにも、どの杖へ何の呪いが移ったか分からない。昨日まで命令ひとつで動いていた道具が、今は主の声を聞くほど激しく暴れた。

 同じころフェリカは、山上修道院の地下宝庫にいた。

「泣く仮面は木箱。嘘を映す鏡は黒布。隣に置いてはいけません」

 院長ミュゼが理由を尋ねる前に、若い修道士が二つを近づけようとした。仮面が笑い、鏡に映った全員の口が消える。

 フェリカは間へ塩板を滑らせた。像は元へ戻り、宝庫の空気が静まる。若い修道士は青ざめて謝ったが、フェリカは責めず、二度と近づけられないよう床へ異なる形の枠を描いた。注意力ではなく仕組みで守るためだ。

「魔法を使わず、呪いを止めた……」

「運ぶ途中で会話させなければいいだけです」

 ミュゼは宝庫の鍵をフェリカへ差し出した。

「封印保管官として雇います。術者が封じるまでの時間を守れるのは、あなたです」

 夕刻、工房から黒い烏が飛来した。嘴の手紙には焦げた指跡がある。

『呪具を分け直せ。戻れば正式な弟子にしてやる』

 フェリカは宝庫の鍵を腰へ下げ、烏へ返書を結んだ。

『結界外へ追放された時点で、魔女工房との保管契約は終了しています』