呪いを入れた右袖

占い師の御影紫苑は、相談者の家へ黒い人形を忍ばせてから訪問した。

「強い死霊が憑いています。今夜中に百万円で祓わなければ、ご家族に災いが起きます」

人形を見つけて恐怖を煽り、高額な祈祷料を取る詐欺だった。特に狙うのは、一人暮らしの高齢者だ。支払えないと言われると、先祖の墓まで呪われると脅し、貯金通帳を持って銀行へ同行したこともある。助手の波留がやめるよう頼むと、紫苑は相談者の玄関先で笑った。

「私が先に置いたなんて誰が証明するの? 失敗したら、助手が勝手に呪ったことにするわ」

そのまま右袖から二体目の人形を出し、台所の棚へ押し込んだ。

相談者は、亡くなった夫の写真を抱えて震えていた。紫苑は写真へ黒塩を振り、「もう夫の魂まで苦しんでいる」と声を潜める。相談者は震えながら、祈祷契約書へ署名しようとした。波留はペン先が紙へ触れる寸前に、確認事項があると言って契約書を引き寄せた。紫苑は舌打ちし、相談者の手首を掴んで『署名しない方が危険です』と迫った。波留は契約確認のため、紫苑にも施術者欄へ署名を求める。

紫苑は《屋内で発見された呪物二体を除去する》と書き、印を押した。

祈祷が始まる直前、玄関が開き、消費生活センターの職員と警察官が入ってきた。相談者は以前から同様の被害を聞き、調査に協力していたのだ。

紫苑は、人形は波留が置いたと叫ぶ。

職員は二体を透明袋へ入れ、紫外線を当てた。布から《御影占術用品店・試作品》の文字が浮かぶ。紫苑自身が発注した特殊インクで、納品書には彼女の受領署名がある。

さらに相談者の見守り用ぬいぐるみが録音を再生した。

――私が先に置いたなんて誰が証明するの?

――助手が勝手に呪ったことにする。

紫苑は契約前だから詐欺ではないと言った。しかし机上には、呪物二体を自分が発見したと保証する署名済み契約書がある。

警察官は右袖に残った同じ黒糸を確認し、令状を開いた。

「御影紫苑。詐欺未遂および住居侵入の容疑で逮捕します」