呼気を捨てない男

相馬は天井の浄化筒を引き抜き、自分のマスクの排気口へ接続した。

白い粒の詰まった筒が、即席の輪を作る。

望月と早乙女は、各自の酸素ボンベを抱え込んだまま眉をひそめた。

《十五分後、個人ボンベの残量が最も多い一名を勝者とする。酸素の共有は禁止》

規則はそれだけだった。

三人のマスクは本来、吐いた息を室内へ捨て、新しい酸素をボンベから補う開放式だ。望月は呼吸を浅くし、早乙女は流量を限界まで絞る。相馬だけは、排気を浄化筒へ通し、再び吸気側へ戻した。

「共有したな」と望月が言う。

「何を?」

「その筒の中身だ」

「二酸化炭素吸収剤だ。酸素じゃない」

人の吐息は、吸った酸素をすべて失ってはいない。二酸化炭素が増えるため、そのままでは苦しくなる。だが白い粒が二酸化炭素を除けば、残った酸素をもう一度使える。足りない分だけをボンベから補えばよい。

相馬は、入室時に浄化筒の側面へ書かれた《CO2 SCRUBBER》を見ていた。主催者は室内空気を清浄に保つ設備として置き、参加者が取り外すとは考えなかった。

終了三分前、早乙女のボンベが警告音を鳴らす。望月も残り一割。相馬の針は七割近くを保っていた。

《勝者、相馬》

「酸素を回し合っただろう!」

早乙女の抗議に、相馬は輪になった管を示す。

「回したのは自分の呼気だ。他人の酸素は一滴も受け取っていない」

共有禁止は、三人が一本のボンベを奪い合うのを防ぐための文言だった。だが主催者は、捨てるはずの息を再利用する発想まで禁止していない。

浄化筒の両端には、吸気と排気を示す矢印が刻まれていた。相馬はマスクの一方弁を逆らわずにつなぎ、吐息が必ず白い粒を通る輪を作った。思いつきだけではなく、部屋に残された図記号を順番に読めば組める仕掛けだったため、判定装置も改造ではなく正規接続として受理した。

相馬の錠が外れた。彼は浄化筒を元の穴へ戻し、まだ余裕のあるボンベを背負って出口へ進んだ。