四枚目は切らない

若者の一時宿泊所になった元美容学校には、個室の扉がなかった。教室を板で四つに仕切っただけで、廊下から布団まで見える。

久留米春弥と白川汐里は、寄付された遮光布でカーテンを作ることになった。ミシンは一台。布は四枚分ぎりぎりだった。

春弥は三日後に出ていくつもりだった。兄へ居場所を知られ、玄関に見覚えのある車が止まっていたからだ。職員には言っていない。

「三枚でいい」

「部屋は四つ」

「四つ目、今は俺しか使ってない」

「だから?」

汐里は返事をせず、一枚目の裾を折った。春弥が待ち針を打ち、汐里が縫う。二枚目は少し曲がり、三枚目は糸が途中で切れた。ほどいて縫い直すうち、夜になった。

残った布を床へ広げると、春弥は鋏を入れようとした。汐里が手首を押さえた。

「丈を測ってない」

「ほかと同じでいい」

「窓の高さ、部屋ごとに違う」

「三日しか使わない」

「三日でも、足が出たら寒い」

それ以上は言わなかった。布は切らずに畳み、春弥の部屋の前へ置いた。

翌日、玄関の車はいなくなった。兄からは〈また行く〉とだけ届いた。春弥は別の宿を検索し、どれも所持金では二泊できないと知った。

深夜、三枚のカーテンが廊下の風に揺れていた。春弥の部屋だけ開いたままだ。彼は巻尺を取り、天井のレールから床まで測った。百九十六センチ。

三枚のカーテンは、住人ごとに閉め方が違った。隙間なく洗濯ばさみで留める者、昼は半分だけ開ける者、足元を猫の通り道にする者。春弥は、自分なら入口側を十センチ重ねたいと思った。その考えが浮かんだこと自体、三日後もここにいる前提のようで腹立たしかったが、測った数字を消すことはしなかった。

畳んだ布の上には、汐里の字で〈洗うと縮む。一センチ長め〉とメモがあった。春弥はその一センチを切り落とさず、チャコペンの線を引き直した。

鋏を入れるのは朝、汐里が起きてからにした。春弥は巻尺を自分の部屋へ置き、鋏をミシンの横へ戻して、明かりを消した。