四行で届いた命
王立治療院では、伝令が長く話すほど患者の到着が遅れた。
「北塔で、その、石が落ちまして、たぶん三十歳くらいの男で、妻が泣いていて――」
受付が聞き直すたび、担架隊は別の門で待たされる。ひどい日は一件の連絡に八分かかっていた。
文書係ルドヴィは、伝令板を四つの枠に分けた。
《今何が起きた》
《その人の背景》
《今の状態》
《何が必要か》
最初の試験は、北塔から本当に来た。
伝令が息を切らす。ルドヴィは余計な物語を止め、四行だけを書かせた。
《石材落下。成人男性一名》
《持病なし、意識あり》
《右腿出血、圧迫中。呼吸二十》
《担架一、外科師一、北門へ》
受付が読み上げるまで二十七秒。
担架隊は北門へ直行し、外科師は必要な器具だけを持った。患者は連絡から六分で治療台へ入り、到着後の質問は一つもなかった。
院長は偶然だと言った。そこでルドヴィは同じ方法を午後の十件に使った。
平均連絡時間は七分四十秒から四十二秒。
行き先を間違えた担架は三台から零。
不要な薬箱を運んだ件数も六件から一件へ減った。
何より、伝令が「全部話したのに伝わらなかった」と怒鳴ることがなくなった。必要な四行が、必要な人へ同じ形で届く。
四枠の板は、話すのが苦手な少年伝令にも効いた。これまで一件ごとに叱られていた少年が、十一件目では三十五秒で連絡を終え、必要な担架と治療師を一度で呼べた。聞く側も同じ順番を待つため、途中で遮る質問が減る。十件合計で浮いた時間は一時間以上。その時間で外科師は二人、薬師は五人を余分に診られた。
院長が古い長文報告書を守ろうとすると、外科師が北塔の患者記録を開いた。
《出血制御。脚温存。連絡遅延なし》
その三語で議論は終わった。
翌朝、王都全十二救護所へ同じ四枠の伝令板が配られた。千枚の印刷注文と一緒に、ルドヴィへ白い制服が届く。
胸の刺繍は『王立治療連絡官』。
「四行で足りる報告に、八分も使うな」
院長が初めて、ルドヴィの言葉をそのまま規則へ採用した。