土の手を選んだ神獣
神殿の選定式に呼ばれた白狼は、誰の前でも足を止めなかった。
王子は宝石を、将軍は勲章を、大神官は聖杖を差し出す。白狼はそれらを見向きもせず、白大理石の回廊を歩き続けた。
陶工見習いのセージは、儀式用の水差しを運んでいた。窯の煤が落ちないという理由で正面入口を使わせてもらえず、今日も選定式が終われば欠けた器ごと責任を負わされる予定だった。身分の低い者は壁を見るよう命じられていたが、白狼の足音が途中から不揃いになったので、つい顔を上げた。
前足の肉球が、白くひび割れている。高価な敷物を汚すまいと誰も足元を見ず、白狼が残した小さな血の跡さえ花びらで隠されていた。
回廊には清めの塩が厚く撒かれていた。人には神聖でも、裸足の白狼には痛い。ひびへ塩が入り、歩くたび血が滲んでいた。
セージは水差しを床へ置き、上着を脱いで塩の上へ広げた。
「こちらを歩けば、少しだけましです」
大神官が怒鳴る。
「儀式を汚すな、土まみれの小僧!」
セージの爪にはいつも粘土が残っている。だが白狼は王子の絹布ではなく、その古い上着へ足を乗せた。
一歩ずつ近づいてくる。セージは工房で手荒れに使う蜜蝋軟膏を取り出した。香りの強い薬は避け、ぬるま湯で塩を洗う。ひびへ軟膏を薄く塗り、柔らかな布を巻いた。
白狼はじっと彼の手元を見ていた。
「器なら割れても焼き直せる。でも、足は替えがないから」
大神官が衛兵を呼ぶ前に、白狼は水差しの横へ置かれた柔らかい粘土へ足を下ろした。大きな足跡が一つ残る。その足跡から銀の光が走り、セージの掌にも同じ形が浮かんだ。
神獣の選定印だった。粘土の足跡はその場で白磁の紋章へ焼き上がり、神殿のどの聖印より澄んだ音を立てた。
王子が信じられない顔で宝石を落とす。セージはそれより、包帯が緩んでいないかを確かめた。
白狼は満足したように伏せ、土で汚れた彼の膝へ頬を預けた。磨かれた宮殿には似合わないほど素朴な白毛は、焼き上がった器の窯肌より温かく、両手で支えても余る重さが、選ばれた事実を静かに実感させた。