土人形が校長へ敬礼した

「魔力ゼロでは、泥団子が関の山だ」

土術科の試験場で、教官モルガンは黒瀬伊織の空の魔力壺を蹴った。課題は土人形を一体作り、三歩歩かせること。伊織の台には乾いた土しかなく、水さえ与えられていない。

伊織は乾いた土を捨てず、指で小さな家の形を作っていた。歩かなくても、誰かを雨から守れる形にしたかった。教官はそれを見て、課題を理解していないと笑った。

周囲の生徒は狼や騎士の形を競った。最後に首席が、学院長そっくりの豪華な人形を作って笑いを取る。

その瞬間、地下の土脈が裂けた。

実技で吸い上げた魔力が古代兵器へ流れ込み、校庭の中央から巨大な石兵が起き上がる。高さは学院塔と同じ。額には、敵味方を識別せず都市を踏み潰す戦時紋章が光っていた。最初の照準線は、校庭の端にある幼年部へ伸びる。教師たちは自分の土人形を盾にしたが、薄い玩具は石兵の足音だけで崩れ、避難路まで瓦礫で塞いだ。

教師の土人形は一踏みで崩れた。

伊織は乾いた土を一握りした。彼に土を操る力はない。与えられたのは、作られたものへ目的を一つだけ授ける能力だった。

《能力・役目付与――形あるもの一体へ、一度だけ存在理由を定める》

伊織は手の中の土ではなく、校庭の石兵を見上げた。

「あなたの役目は、この学院の生徒を守ることだ」

戦時紋章が消えた。

振り上げられていた巨大な足が静かに地面へ戻る。石兵は校舎に背を向け、外周へ立った。次いで胸の装甲を開き、内部に詰まっていた数千本の攻撃槍を自ら粉砕する。

最後に、石兵は膝をついた。

その視線の先にいたのは、学院長像を作った首席でも、命令を叫ぶ教官でもない。乾いた土を握った伊織だった。

地脈測定壺が一斉に満杯となり、圧力に耐えきれず砕ける。

伊織は別の人形を作らなかった。三歩歩かせる必要もなかった。

本物の学院長サヴァンが観覧塔から降りてきた。石兵が彼にではなく伊織へ敬礼するのを見て、校長は帽子を脱ぐ。

「土を従わせる者は術師です」

サヴァンも石兵と同じ姿勢で敬礼した。

「役目を与え、兵器を守護者に変える者は、建国者と呼びます」