墓地から帰った百人
雷が一度鳴っただけで、聖都の共同墓地から百人の死者が起き上がった。
彼らは人を襲わなかった。ただ家へ帰ろうとして門へ押し寄せた。石工は亡き妻に名を呼ばれ、兵士は十年前に埋葬した隊長と向き合い、町は恐怖と混乱で動けなくなった。
大司祭デルカナは聖騎士へ命じた。
「不死者を焼き払え!」
墓守が杖の前に立ちはだかった。
「違います。魂は眠ったまま、地脈の魔力が体だけを動かしているのです!」
昨日まで墓地の下には、カリュアの結界が一枚敷かれていた。死者を閉じ込める檻ではない。雷雨で乱れた地脈の力を、墓石の間から外へ逃がす接地の結界だ。
派手な浄化光を出さないため、デルカナは「死者を恐れて土に線を引く臆病者」と彼女を聖都から追放した。その最初の雷が、百の体へ同時に届いた。
同じ夜、カリュアは山村の新しい慰霊園で石工グウェナと最後の石を置いていた。薄い結界が地面に広がると、風に混じっていた不快な唸りが消える。
「ここは古戦場だから、夜ごと鍬や鎧が勝手に動いていた」
「残った魔力の通り道を変えました。亡くなった方を縛る術ではありません」
「だから墓参りに来た子が怖がらずに花を置けるんだね」
村人はカリュアへ墓地の鍵ではなく、祭日の先頭で灯す白い灯籠を任せた。監視役ではなく、安息を作った者として。
夜明け前、聖都から鐘を鳴らす馬車が到着した。デルカナの使者が膝をつく。
「死者を再び眠らせていただきたい。大司祭は結界職の復位を認めると」
カリュアは村の灯籠へ火を入れ、静かに答えた。
使者の背後から、聖都の鐘が絶え間なく聞こえた。大司祭は死者を焼く命令を撤回したらしいが、それも墓守たちが必死に止めたからだという。カリュアが戻れば、騒ぎが収まった後にまた臆病者と呼ばれるだろう。山村では、慰霊園の仕組みを石工たちも学び、彼女が不在でも地脈の変化を記録すると約束していた。死者の安息を一人の秘密にせず、皆で守る。その姿勢こそ、華やかな聖句より深い敬意だとカリュアは思った。
「聖都との契約は、追放の日に終了しています」