増えた荷重は十八秒後
国際貨物港の検査場で、通関士の津守絢斗は密輸犯として床へ押さえつけられた。
担当した医療機器の木箱から、輸出禁止の月光石が十個出たのだ。
「検査済みの印を押したのは津守です」
監督官の江波戸丈が、割れた封緘テープを掲げた。
「密輸業者から金を受け取り、見逃した。若いのに羽振りがよかった理由も分かりました」
絢斗の机からは現金入りの封筒まで見つかる。江波戸は押収記録へ署名し、木箱を初めて開けた時刻を〈午前十時十五分〉と記した。
絢斗は、検査前のX線画像を出してほしいと頼んだ。
「無駄だ。石は機器の内部へ隠されていた」
江波戸が拒むと、港長が保管サーバーを開く。午前九時四十分の画像に、月光石はない。箱の総重量も二百四キロだった。
その後の荷重記録では、午前十時七分、箱が三・八キロ重くなっている。
直前の午前十時六分四十二秒、管理者用の鍵で封緘が解除されていた。使用者は江波戸。十八秒後に荷重が増え、さらに二分後、新しい封緘テープが貼られている。
「抜き取り検査をしただけだ!」
「報告書には、十時十五分に初めて開けたとあります」
港長が彼の署名を示す。
貼り直されたテープの製造番号も、江波戸が前日に一巻だけ持ち出したものだった。持出簿の用途欄には〈津守担当便の不正立証用〉と書かれている。急いでいた江波戸は、証拠用と書けば正当な持ち出しに見えると思ったらしい。
現金入り封筒からも、港の囮捜査用紙幣の番号が検出された。江波戸が保管庫から受領した記録付きだった。
絢斗の拘束が解かれる。
港湾警察の隊長が逮捕状を広げた。
絢斗の机に置かれた封筒には、受領者へ付着する無色の追跡粉も塗られていた。江波戸の両手だけが検査灯の下で青く光り、絢斗の手には何もない。囮紙幣を扱った後で手袋を替えず、証拠をロッカーへ仕込んだためだった。彼が周到に並べた二つの偽証拠が、互いに同じ犯人を指した。
「江波戸丈。密輸、証拠捏造および公務員への虚偽告発の容疑で逮捕する」