失恋処置は三回目

御園生冬路は、同じ女性に三度振られた。

正確には、三度目だと知ったのは失恋処置センターの受付AIだった。

〈過去二回、同一人物に関する感情緩和を実施しています〉

冬路には記憶があった。大学の同期・蕗子と付き合い、別れたことも覚えている。ただし胸の痛みだけが消されていたため、別れた理由は古い映画のあらすじのように現実味がなかった。

一度目は、蕗子が連絡を無視する冬路に疲れた。処置後、彼は反省したつもりで花を持って謝り、やり直した。

二度目は、冬路が仕事を優先し続けた。処置後、彼は寂しさを忘れたぶん明るくなり、蕗子は「変わったかもしれない」と戻ってきた。

三度目、蕗子は引っ越しの段ボールを閉じながら言った。

「あなたは別れるたび元気になる。私は二人分、傷ついたままなのに」

冬路は彼女を失う悲しみを感じた。その痛みを消せば、また同じ笑顔で訪ねてしまう気がした。

受付AIは処置を勧めた。

〈就労への影響、睡眠障害、自傷リスクを低減します〉

「痛いままだと、何か変わりますか」

〈変化は保証できません〉

「じゃあ、消したら?」

〈苦痛は軽減します〉

冬路は処置を断った。

最初の一か月は惨めだった。通勤電車で蕗子に似た髪を見て降り損ね、二人で買った皿を洗えず、仕事の期限を落とした。友人は「また治してもらえ」と言った。

だが痛みは、別れの場面だけでなく、その前に自分が何をしていたかも連れてきた。蕗子からのメッセージを後回しにした夜。話を聞きながら端末を見た癖。謝れば関係は初期化できると思っていた甘え。

冬路は復縁を求めず、一通だけ手紙を書いた。

〈もう一度選んでほしいとは言わない。あなたが三回苦しんだことを、今回は忘れない〉

返事はなかった。

一年後、冬路は別の人と付き合い始めた。喧嘩をした夜、処置センターの広告が端末に表示された。彼は削除し、翌朝、気まずさを抱えたまま会いに行った。

「まだ怒ってる?」と尋ねると、恋人は「かなり」と答えた。

「よかった」

「何が?」

「消さずに済む話なら、まだ続きがある」

冬路は痛みを大切だとは思わない。できれば少ないほうがいい。ただ、痛みが知らせた自分の癖を、もう誰か一人に繰り返し背負わせたくなかった。