嫁採点表

砥上家の冷蔵庫には、《嫁採点表》が貼られていた。

朝食が七時を過ぎるとマイナス十点。義母・登美への返事が遅いとマイナス五点。義父・義明の酒が切れればマイナス二十点。夫の裕貴は毎晩、赤ペンで合計し、百点を下回ると絢香の生活費から「罰金」を引いた。

「母さんの採点は公平だよ」

「私の家事には点が付かないの?」

「家族に請求するなんて、おかしいだろ」

三年後、絢香は採点表を一枚残らず持って家を出た。

離婚協議の日、登美は分厚いファイルを持参した。

「絢香さんの減点は合計一万二千点。迷惑料として百二十万円いただきます」

裕貴が得意げに卓上電卓を叩く。

絢香の弁護士は、同じ形式の青い表を三人へ配った。

《午前五時以前の送迎 二百八十一回》

《家業の経理作業 千四百七十六時間》

《給与口座からの無断控除 三百六十二万円》

《深夜の説教・外出禁止・実家との連絡妨害 録音四百三件》

登美が紙をめくるたび、顔色を失った。

「家族の手伝いでしょう。時給なんて発生しないわ」

「家事ではありません」

弁護士が答えた。

「絢香さんは義明さんの会社で、請求書発行、給与計算、税務資料の作成をしていました。裕貴さんが『無給経理担当』とメールで指示し、会社も経費として外注費を計上しています」

義明が裕貴をにらむ。

「外注費はお前が受け取っていたはずだ」

その金は裕貴の趣味と、登美の旅行に使われていた。

弁護士は最終行を指した。未払い報酬、無断控除の返還、休業損害、三人の共同不法行為による慰謝料一千万円。請求総額三千百四十八万円。

裕貴は笑おうとした。

「そんな紙、払わなければいい」

「先月、裁判所から届いた支払督促を『広告』だと言って放置しましたね。異議期間は昨日で終わりました」

登美の赤ペンが止まった。

扉が開き、執行官が会社口座と自宅不動産の差押調書を持って入ってきた。裕貴のスマートフォンには、給与口座停止の通知が届く。

絢香は卓上電卓へ三、一、四、八、万、ゼロ、ゼロ、ゼロと打ち込んだ。

液晶に《31,480,000》が表示される。

「これが、砥上家の最終得点です」