完全版には一太刀しかない

《都合のいい瞬間だけ切り抜いて最強ぶってる》

《長期戦の失敗部分を全部消してるんだろ》

《芦屋岳の十秒討伐、完全版を出せ》

芦屋岳は、その要求どおり配信を始めた。

開始前から時計を映し、複数社の監査配信へ同時送信する。ボス部屋へ入るまで剣は封印袋に入れたままだ。

移動や待機も含めて一秒も省かず、控室の無言の二十分まで配信した。疑惑側が望んだ「退屈な部分」も完全版に残っている。

待っていたのは、七重回廊の守護者。攻撃されるたび別の回廊へ本体を移し、七つすべてを踏破しなければ傷つかない。

岳は封印を破って剣を抜いた。

「長い部分がないんだ。だから編集者も困ってる」

守護者が七つの扉へ分裂する。迷宮の奥行きが枝分かれし、画面には異なる景色が同時に映った。

岳は正面の空間を、一度だけ斬る。

剣先が触れた場所から、景色そのものが紙のようにずれた。七つの回廊が同じ断面へ重なり、それぞれに隠れていた守護者の核が一直線に並ぶ。刃はそのすべてを通り抜け、背後の出口へ収まった。

七つの扉が一斉に消える。討伐時計は、九秒で止まった。

《配信開始から全ログ連続》

《戦闘部分、本当に一太刀だけ》

《回廊を移動したんじゃない。七つの空間を重ねて斬った》

《監査カメラ八台、全部別角度で同じ現象》

《切り抜きが短いんじゃなくて現実が短い》

岳は剣を封印袋へ戻す。

「完全版、保存できた? 余った尺は自由に使って」

コメント欄では、批判動画を上げた編集者が自分の検証結果を投稿した。フレーム補間も音声接続もなく、むしろ九秒の間に通常の七層分の座標情報が詰め込まれている。

《編集点ゼロ》

《空間座標七系統が同一時刻に消失》

《疑惑動画を非公開にした。俺の編集技術ではこれを偽造できない》

《完全版を求めたら、完全すぎて九秒だった》

公式アーカイブの再生時間が確定する。

【配信総時間 00:04:31】

【戦闘時間 00:00:09】

【使用攻撃回数 1】

そして運営が付けた新しい題名は――『ノーカット版・切る場所は空間そのもの』。